2016 Fiscal Year Annual Research Report
ABCA1の分解機構を創薬標的とする新規動脈硬化治療法の開発
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16J09012
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
勝部 彬 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 動脈硬化症 / HDL / ABCA1 / 細胞内トラッフィッキング / タンパク質の翻訳後修飾 |
Outline of Annual Research Achievements |
ATP binding cassette transporter A1(ABCA1)は、生体内においてhigh density lipoprotein(HDL)生合成や、マクロファージの泡沫細胞化の制御を介し、動脈硬化症に対して抑制的に働いているトランスポーターであり、本疾患の創薬標的として注目されている。本研究では、ABCA1のリソソーム分解経路(Ubiquitin(Ub)-Lysosome分解経路)を制御することでABCA1の発現量、機能上昇を達成し、動脈硬化症の治療を目指す。当研究室ではこれまでに、本経路がABCA1の発現量維持に寄与し、ABCA1の抗動脈硬化機能とリンクすることが明らかにしてきた。しかし、本経路の制御を担う分子機構に関する知見は現状ほとんど存在しない。 申請者は、本機構の制御因子として、新たにPim-1 kinaseを見出した。Pim-1 kinaseによるABCA1のリン酸化により、細胞膜に発現するABCA1のリソソーム分解が有意に抑制されることをin vitro実験により見出した。また、Pim-1 kinase機能欠損マウスの肝臓では、ABCA1の細胞膜発現量の低下が確認された。本研究成果は、米国心臓協会の学会誌に掲載された(Katsube A, ATVB. 2016)。また申請者は現在、ABCA1のリソソーム分解の制御を実現すべく、本分解経路に関わるPim-1以外の分子群についても探索を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者は、細胞膜に発現するABCA1のリソソーム分解の抑制により、ABCA1の機能活性化が個体レベルにおいて実現することを示唆する結果を得ている。本知見に基づき、当該機構の制御による新規創薬戦略の創出を目指して研究を行っている。ABCA1のUb-Lysosome分解経路は、核内受容体LXRβが細胞膜に局在するABCA1(csABCA1)と直接結合することにより抑制されている。申請者は本相互作用の増強により、Ub-Lysosome分解経路の制御が可能になると考え、本相互作用の制御因子の探索を行った。タンパク質間相互作用に、タンパクのリン酸化が関与する例が報告されていることから、キナーゼに着目した探索を実施し、Pim-1 kinase(Pim-1)を本相互作用の制御因子候補として見出した。細胞、個体を用いてより詳細な解析を実施したところ、Pim-1L- ABCA1経路は細胞レベルだけでなく、個体レベルにおいても保存されている経路であることが示唆された。 ABCA1は、細胞膜でUb化を受けて内在化した後、初期エンドソームにおいて、脱ユビキチン化、あるいはESCRT complexによるリソソームへの選別輸送を受ける(Mizuno T , Hepatology. 2011)。脱ユビキチン化を受けたABCA1は細胞膜へとリサイクリングされると考えられるが、初期エンドソームでのABCA1の脱ユビキチン化機構、ならびに脱ユビキチン化されたABCA1の細胞膜へのリサイクリングに関わる分子群に関しては不明である。現在、当該機構に関わる可能性のある分子を複数同定しており、今後は本分子群の創薬標的としての可能性を検証すべく、さらに詳細な解析を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者はこれまでに、初期エンドソームでのABCA1の脱ユビキチン化機構、ならびに脱ユビキチン化されたABCA1の細胞膜へのリサイクリングに関わる可能性のある分子を複数同定している。これら候補分子が、実際にABCA1の細胞膜発現、機能制御に働くことをHepG2細胞、Mφを用いて検証する。次に当該分子群がABCA1に及ぼす作用をin vivoで評価すべく、アデノウィルスや阻害剤を用いたin vivo試験を行い、ABCA1の生体内機能の指標となる、血中HDLコレステロール産生、高脂肪食負荷時における動脈硬化損傷部位面積の変化などを評価する予定である。
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