2017 Fiscal Year Annual Research Report
ムスクの香りの認識機構とムスク受容体の生理効果の解析
Project/Area Number |
16J09029
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
悪原 成見 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
Keywords | ムスク / ヒト / 嗅覚受容体 / 遺伝子多型 / 官能試験 / マウス / 内在性リガンド |
Outline of Annual Research Achievements |
近年嗅覚受容体の遺伝子多型と,そのリガンドとなる匂い物質の感じ方すなわち表現型との関連が報告されているが,その数は数えられる程度でしかない. 古代より良い香り以上の効能があると信じられてきたムスクの香りもまた,ムスクの香りのみ感度が低い,特異的嗅盲が一定数存在することが古くから知られていた.そこで本研究では,当研究室で同定・解析されたヒトムスク受容体OR5AN1の遺伝型とムスクの香りの感受性が関連していると仮定し,遺伝型による応答性の違いをHEK293細胞におけるルシフェラーゼアッセイを用いて,感受性をヒトに実際に匂いを嗅いでもらう官能試験を行い,関連を調べた. ヒトムスク受容体OR5AN1は4つの一塩基多型が報告されており,それらの変異の組み合わせから参照配列を含めて5つのハプロタイプ(対立遺伝子のいずれか一方の組み合わせ,片側配列)をもつ.これらのハプロタイプの様々なムスク香料への応答性を,ルシフェラーゼアッセイを用いて調べたところ,ハプロタイプAとBは参照配列様の応答を示し,CとDはムスク香料に対してほとんど応答を示さない機能喪失変異であることがわかった.特にハプロタイプAは,参照配列よりもムスク香料に対してより良い応答性を示した.ハプロタイプCとDはアフリカ人にのみ,Bもまた少ない頻度でしか発現していないため,参照配列とハプロタイプAをもつヒトでムスクの香りの感受性の違いが見られるか,官能試験を行い調べた.ムスクの代表的な香りであるムスコンを用いて,匂いへの感度を調べる閾値テストを行った結果,ハプロタイプAをもつ遺伝型のヒトは,そうでないヒトに比べて有意に低い濃度でムスコンを嗅ぐことができた.この結果はルシフェラーゼアッセイの結果と一致しており,ムスクの香りの感じ方もまた,その匂い物質をリガンドとする嗅覚受容体の遺伝子多型による影響を受けることを示している.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ムスクの香りの知覚レベルの解析、官能試験において、解析に足る被験者数を集め、受容体レベルでの解析と一致する結果が得られた。この結果は、共同研究先のアメリカモネル化学感覚研究所と共に投稿論文として発表する準備をしている。 さらに、上記の実験に伴い、受容体と匂い物質の構造活性相関について別の研究テーマへの布石となるような結果が得られた。 一方で、マウスムスコン受容体の内在性リガンドの探索に関しては、応答解析・サンプル精製ともに遅々としてあまり進んでおらず、課題が残っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
ムスクの香りの表現型と遺伝型の関連については、一通り結果がそろったため、論文を投稿する準備を進める。論文を執筆する段階で、必要に迫られたらその都度追加実験を行う。 マウスムスコン受容体の内在性リガンド探索については、精製方法の検討をより幅広い方法で、また元のサンプル量も増やし視野を広げて行いつつ、今まで得られた結果をより詳細に解析する。
|
Research Products
(1 results)