2017 Fiscal Year Annual Research Report
潤滑下におけるDLCの超低摩擦発現メカニズム解明のためのその場複合解析装置の開発
Project/Area Number |
16J09043
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
大久保 光 東京理科大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | DLC / 超低摩擦 / 潤滑油添加剤 / AFM / Raman / その場観察 / In-situ / トライボロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
DLC膜の油中超低摩擦発現メカニズム解明のために,前年度作製したIn-situ Raman摩擦試験機にSpace Layer Imaging法(SLIM)を導入することでさらなる改良を施し,in-situ Raman-SLIM摩擦試験機を開発した.これを導入することで,DLC膜の構造変化層,反応生成物の化学情報及び構造変化-反応生成物膜厚さの解析を可能とする.すなわち,本試験機一つで,摩擦・摩耗・潤滑油由来生成物・材料構造変化・摺動界面生成物の層厚さという5つのパラメータを同時取得可能となった. また,前年に引き続きMoDTC油中DLC膜の異常摩耗現象の解明に取り組んだ.本年度はIn-situ Raman摩擦試験機に加えて,Raman分析結果の補完する他分析装置を併用することで現象解明を行った.成果から,MoDTC油中におけるDLC膜の異常な構造変化はモリブデンカーバイドの生成時のトライボケミカル反応により誘起されていることが示唆され,硬質なモリブデンカーバイドがDLC相手材料のSteel側に形成されることアブレイシブ摩耗を引き起こしていることが確認された.したがって,MoDTCの異常摩耗現象はDLC由来炭素とMoDTCのトライボケミカル反応により生成された硬質Mo-Cによる機械的摩耗が主要因であることを突き止めた.この成果により,異常摩耗を発生しないDLC組成や添加剤処方を提案した. 新たな取り組みとして, 周波数変調AFM(FM-AFM)を用いた油中における超低摩擦DLC界面のその場AFM観察を行った.FM-AFMは従来のAFMの力感度を遥かにしのぐ評価手法であり,トライボロジ現象解明のための界面構造解析に非常に有用である.この解析結果から,DLCの超低摩擦界面の吸着膜は,摩擦エネルギ―により膜厚方向に吸着膜分子密度が増加しており,この特異な界面構造がDLC膜の超低摩擦を発現しているものと推察される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度開発したin-situ Raman-SLIM分析装置は反応膜厚さ・化学組成・摩擦係数・摩耗状態を一度に把握できる複合型その場摩擦試験機であり,今後の研究を大きく後押しするものである. また,本年度の主な成果である「その場複合観察装置を用いたエンジン油中のDLC膜の異常摩耗メカニズムの解明」は,本研究の目的の一つでもあるDLC膜の超低摩擦を安定的に発現するための技術の根幹をなす成果であると考えられる. 加えて,FM-AFMを用いたDLC膜の超低摩擦界面のその場観察の成果は,本研究が目的とする超低摩擦現象のメカニズム解明に大きく寄与するものである.
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Strategy for Future Research Activity |
その場複合観察装置およびFM-AFMを用いることで,超低摩擦界面観察と超低摩擦・異常摩耗現象のさらなる解明を行う.さらに,昨年度までの成果を基にDLC膜の超低摩擦現象・またそれに伴う摩耗現象についてまとめ,超低摩擦を安定的に発現する新規DLC設計や新規添加剤設計を試みる.これまでの知見から,従来使用されている重金属添加剤(ZDDP,MoDTC)では,DLCの低摩擦化を狙った際に構造変化を起因とした摩耗が大きな問題点となることが確認されている.したがって,そのような重金属によるDLC膜の構造変化を抑制するようなDLC膜構造の提案を行う.加えて,近年の環境問題を背景として,重金属添加剤の代替添加剤が求められていることから,C,O,H,Nといった元素構成からなるDLC膜用の環境対応添加剤の創生を試みる.
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