2016 Fiscal Year Annual Research Report
古代アンデス文明における都市の社会動態についての研究
Project/Area Number |
16J09126
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
松本 剛 山形大学, 人文学部, 特別研究員(PD) (80788141)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | アンデス先史学 / 中心と周縁 / 都市遺跡 / 多民族共生 / ハウスホールド考古学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ペルー北海岸において今から約千年前に栄えた国家「シカン」の首都・シカン遺跡を対象とし、これまで中央政権の形成・発展・崩壊のプロセスによって定義されてきたシカン成立から終焉まで約500 年間の“支配者たちの歴史”を、首都の北部周縁地帯(ワカ・アレーナ)に暮らしていたと考えられている平民たちの日常生活に注目することによって被支配者の視点から見直すことにある。研究方法としては、まず(1)測量調査によるワカ・アレーナの基本地形図製作と(2)地中レーダー探査による埋蔵物の識別と地図化によって遺跡内の空間配置を明らかにし、(3)地表面の観察と遺物採集の結果を参考にしながら遺跡を小区画に分け、それぞれの特徴を明らかにする(住居・公共・埋葬/祭祀空間など)。その上で、(4)各区画内での考古学発掘調査と(5)出土遺物や発掘データの分析を段階的に実施することによって、上に述べた被支配者たちの諸活動とその通時的変遷をとらえることが可能となる。今年度は、上記の1~3を実施した。
今年度の調査の最大の収穫は、おもに地表面観察と遺物採集によって、ワカ・アレーナが当初の想定以上に広く、比較的長期に渡って一般居住区として機能していたことが確認できた点にある。また、4つのエリアで行った地中レーダー探査では興味深い特徴的な反射波が見つかった。反射波の強度を階調表現した断面図データを平面上にプロットしたタイムスライス図は、今後の発掘区の選定および設定に大いに役立つであろう。さらに、探査結果を評価するために行った試掘では、ユニット1にて人間の遺体が見つかった。埋葬体位も副葬品の位置も、シカンに先行するモチェ文化の埋葬様式に則ったものであった。今後、年代測定によってシカン期のものと同定されれば、シカン人とモチェ人の共存が証明され、シカンの多元性について研究するための格好の切り口となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
地表面の詳細な観察の結果、ワカ・アレーナは当初の想定より大きく、総面積は約2.25平方キロメートルに及ぶことが判明した。遺跡内には10を越す小さな砂丘や基壇が点在し、その周辺に遺物が集積している。また、遺跡の中心を南東から北西に向かって平行して流れる二つの灌漑用水路も見つかった。地表面で見つかった遺物の多くはパドルと石を使って成形されるパレテアダ土器の欠片であった。パレテアダとは、調理や貯蔵のために日常的に使われる実用土器である。このタイプの土器片が多数見つかったことは、このエリアが一般居住区であったという仮説を強く支持するものである。また、パレテアダ土器片に混じって冶金・土器製作で使用される道具類が見つかったことは、居住区の中に工房が併設されていた可能性を示唆している。パレテアダ土器の成形時に、パドルに刻まれた文様が土器の外壁面に刻印されるが、この文様のタイプは時代によって変化する。ワカ・アレーナでは比較的小さな幾何学文様が多く、おもに後期シカン期(紀元後1100-1375年)以降に居住されたことを示唆している。また、形成期の土器片も見つかっており、このエリアでの居住は比較的長く、形成期(少なくとも形成器後期)まで遡る可能性がある。
4つのエリアで行った地中レーダー探査では、興味深い特徴的な反射波が見つかった。反射波の強度を階調表現した断面図を平面上にプロットしたタイムスライス図は、今後の発掘区の選定および設定に大いに役立つであろう。さらに、探査結果を評価するために行った試掘では、ユニット1にて人間の遺体が見つかった。埋葬体位も副葬品の位置も、シカンに先行するモチェ文化の埋葬様式に則ったものであった。
以上によって、「ワカ・アレーナ内の空間配置を明らかにし、小区画に区分する」という今年度の調査の目標をある程度達成できたため、おおむね順調に進展していると結論付けた。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように、遺跡は当初の想定よりも遥かに大きく、基本地形図製作の作業量は倍増した。より精密な地図として仕上げるため、次年度も一部の測量作業を継続する。また、測量作業の効率を上げるためには、自動視準および自動追尾機能を持った新しい機種の導入が望ましい。購入とリースの双方のケースを視野に入れた計画を再考する。
地中レーダー探査とそれに続く試掘からは極めて精密で重要なデータが得られ、遺体が見つかったユニット1周辺は次年度の有力な発掘候補地となった。特徴的な反射が見られた深さまで掘り下げることによって、さらなる発見が期待できる。また、コア・ボーリングを導入して、より広範囲において土壌や含有遺物、その層位を直接的に観察すれば、土地利用の違いや変化をさらに詳しく明らかに出来るという見通しも得られた。
したがって、次年度(平成29年度)の調査では、(1)追加測量によって遺跡地形図を精緻化し、(2)コア・ボーリングによって広範囲において土地利用の違いや変化を明らかにするとともに、(3)遺体が見つかったユニット1とその周辺の発掘をさらに進め、再来年度(平成30年度)の本格発掘に繋げることを主眼とする。ちなみに、遺跡名が示すとおり(ワカ・アレーナ=“砂の聖地”)、調査地周辺の地板は大変ゆるく、遺跡への往来に使用したピックアップトラックはたびたび砂にタイヤを取られて立ち往生することとなった。次年度以降の調査では遺跡への経路の一部を砂利などで舗装することも視野に入れている。
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Research Products
(1 results)