2017 Fiscal Year Annual Research Report
骨格構成元素として高周期14族元素を含むアリールアニオン種の合成とその性質解明
Project/Area Number |
16J09198
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤森 詩織 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | ゲルマニウム / フェニルアニオン / 芳香族化合物 / 高周期14族元素 / 錯体 / ケイ素 |
Outline of Annual Research Achievements |
ベンゼンの骨格炭素を同族の高周期元素に置き換えた重いベンゼンは、電子材料への展開等の観点から興味がもたれている。しかし、これらの化学種は高反応性であり、容易に多量化が進行してしまうという問題がある。その安定化法としてかさ高い置換基を用いた立体保護が有効である。本研究では、新たな手法として、電荷反発によりその多量化を防ぐ手法を考案しており、既に我々は、電荷反発により室温で安定な単量体の化合物として存在するゲルマベンゼニルカリウムを合成・単離することに成功している。我々は、対カチオンがゲルマベンゼニル環に与える影響を系統的に解明するため、カリウム体に加え、リチウムおよびナトリウム体の合成を検討し、各種金属試薬を反応させることで、対応するアニオン体を合成することに成功した。また種々検討した結果、アルカリ金属の原子半径の差により、それぞれの構造に差が生じていることが判り、対カチオンの違いにより、結晶性や安定性に違いが発現することが明らかとなった。本成果は、Chem. Lett.誌に掲載された。また、それらの反応性を検討していく中で、配位子としての機能に着目し、種々検討を行った。その結果、初めての金属置換の含高周期14族元素芳香族化合物とみなせる錯体を合成・単離することに成功し、これらの錯体は、これまでに例のない特殊な配位形式を有する化合物であった。この結果はアニオン体が配位子としての特異な反応性を示した重要な結果であると言える。本成果は、現在Chem. Commun.誌に投稿中である。また、昨年度、取り組むことができなかったケイ素の系においても、そのアニオン種の合成を検討した。ケイ素上にかさ高いアリール基、1位にt-Bu基を有する新規なシラベンゼンの合成に成功した。アニオン種の合成についてはゲルマニウムの系とは異なる結果が得られており、現在その詳細を解明するべく研究を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の2年目の計画では、かさ高いアリール置換基を用いない、簡便かつ効率的な含高周期14族元素ベンゼンのアニオン種の新規合成法を開発する予定であった。当初の計画通りに、二価化学種を経由することによるアニオン種の合成を検討した。炭素骨格のリチオ体に対してゲルマニウム源である種々のゲルミレン錯体を反応させたところ、目的のゲルマニウムを含む6員環化合物は得られず、複雑な混合物を与えた。そこで安定性や合成の簡便さ等の都合により、アントラセン骨格の系に関して、この新規合成法開発に取り組むこととし、現在研究を進めている。一方で、計画にはなかったものの、このアニオン種の錯形成反応を検討していく中で、配位子としての機能を見出すことができた。ゲルマベンゼニルカリウムとルテニウム錯体との反応により、[Cp*Ru{GeC5(t-Bu)H4}]ユニットの二量体および三量体である錯体が得られた。X線結晶構造解析、各種スペクトル測定、理論計算の結果から、ゲルマベンゼニル環がルテニウムに対しh1,h3配位した特異な配位形式を有する錯体と、1つの環はルテニウムとのσ配位のみであるのに対し、残り2つの環は、πおよびσ配位の両方を有する構造を持つ錯体であった。これらの錯体は、初めての金属置換の含高周期14族元素芳香族化合物であり、これまでに例のない特殊な配位形式を有する化合物である。この結果はアニオン種の配位子としての特異な反応性を示した興味深い結果である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、アリールアニオンの高周期14族元素類縁体である「重いアリールアニオン」の合成・単離、性質解明を目指してきた。そしてこれまでに、対カチオンとしてリチウム、ナトリウム、カリウムを有するゲルマベンゼニルアニオン、また、中心元素としてスズを有するスタンナベンゼニルアニオンを合成・単離することに成功している。また、中心元素としてケイ素を有するアニオン種に関して、ゲルマニウムやスズの系とは異なりアリール置換基が脱離しないアニオン種が得られている。これは元素の違いにより性質に差が生じた興味深い結果であるため、各種スペクトル測定やX線構造解析を用いて、今後さらなる詳細な性質解明を進めていく予定である。アリールアニオン種の新規別途合成に関して、アントラセン骨格において検討する予定である。ゲルマニウム源を導入する前の骨格までは合成できているため、この化合物に対し、ゲルマニウム源としてテトラクロロゲルマンを導入する。その後、塩基を作用することでゲルマアントラセンを合成した後、金属試薬を作用させることでアニオン種の合成を目指す。また、当初の予定通り、縮合多環式芳香族化合物に関しても、そのアニオン種の合成単離を目指す。別途合成と平行し、既知化合物である、かさ高いアリール置換基を有するゲルマアントラセンに還元剤を作用させることでアニオン種の合成を目指す。得られた化合物についてそれぞれX線結晶構造解析・各種スペクトル測定を用いてその構造・電子状態を解明する。また、アントラセン骨格以外にもナフタレン骨格などにおいてそのアニオン種の合成に取り組む。
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