2016 Fiscal Year Annual Research Report
触媒的C-H結合酸素化によるエクテナサイジン743の全合成
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16J09383
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小島 正寛 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | C-H結合官能基化 / 酸化反応 / 脱水素反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は抗腫瘍活性を有する天然物であるエクテナサイジン743を、新規触媒的炭素―酸素結合形成反応を用いて高効率に全合成することを目的とする。鍵工程となるフェノール誘導体のオルト位選択的なC-H結合酸素化反応は分子間反応であるため、より難易度の低い分子内反応を用いて初期検討を行った。モデル化合物としてカーバメート保護したフェノール誘導体を遷移金属触媒存在下、酸化的条件に付すことでオルト位酸素化を目指した。しかし反応条件を検討しても基質の損壊が進行するのみであり、酸化剤を用いる条件にて目的反応を実現することは困難であることが示唆された。 そこで酸化剤を用いない条件における酸化反応である「水素放出型脱水素反応」に着目した。一般的な「水素放出型脱水素反応」は分子水素の放出を伴い、有機化合物を不飽和化させる反応である。この形式の反応では酸化剤を用いる必要がないため、目的物が酸化条件に対し不安定であるという問題を克服しうるものと考察した。そこで水素放出型での触媒的炭素―酸素単結合形成を最終的な目標と設定し、これに至るまでの予備的な検討として、単結合を二重結合へと変換する形式での水素放出型脱水素反応を検討することとした。 検討の結果、有機ホウ素触媒を用いる条件にて含窒素飽和ヘテロ環の脱水素反応が、また光触媒、有機触媒、パラジウム触媒の三成分ハイブリッド触媒系を用いる条件にて飽和炭化水素の脱水素反応が進行することを見出した。これらの触媒反応の知見をシグマ結合を形成する形式へと応用することにより、脱水素的な炭素―酸素結合形成反応の実現を目指す計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は酸化剤を用いる条件による触媒的なC-H結合酸素化を検討していたが、酸化条件に対し耐性の低い基質への応用を鑑み「水素放出型脱水素反応」へと検討の中心を移したことが研究の大きな進展につながった。 「水素放出型脱水素反応」は、高エネルギー分子である水素を生成する過程を経るため熱力学的に難易度の高い変換として知られている。有機分子に対する既報の手法ではイリジウムやルテニウムといった特に希少な遷移金属触媒や200度程度の激しい反応条件が必要であり、触媒の高いコストや毒性、低い官能基許容性などのために有機合成化学への応用は未開拓な分野であった。本研究においては、新規な脱水素触媒の開発から取り組むことにより、これらの課題の克服を目指した。 その結果、含窒素ヘテロ環の脱水素触媒としてはフラストレイテッドルイスペアの化学において水素添加触媒として活用される有機ホウ素化合物が、効果的な脱水素触媒として機能することを見出した。本反応はアミンα位からのヒドリド引き抜きというユニークな鍵段階を経て進行することが反応機構解析実験から示唆され、新たなC-H結合官能基化手法としても多様な応用展開が期待される。また飽和炭素環の脱水素触媒としてはsp3 C-H結合の官能基化手法として近年注目されている光触媒と有機触媒の組み合わせに、さらにパラジウム触媒を複合させた3成分ハイブリッド触媒系が有効であることを見出した。本反応においては反応系中で発生する有機ラジカルが遷移金属触媒と結合し、活性な有機金属化学種を発生するという機構が示唆されている。 本分野において有機合成化学的に有用な新たな新規脱水素触媒系を二つ見出すことに成功した点は、目的とするエクテナサイジン743の全合成計画における鍵反応の実現向けた大きな前進であるだけでなく、広く触媒化学一般にも貢献する成果であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は光触媒による1電子酸化によりオキシルラジカルを発生させる条件を用い、カーバメート誘導体からのオルト位酸素化を実現する計画である。本計画においては、炭化水素の脱水素反応において開発した反応条件に改変を加えることにより、目的の変換が実現できるものと考えている。すなわち光触媒により酸素官能基を1電子酸化し、生じる高活性なオキシルラジカルの芳香環の二重結合への付加により炭素―酸素結合を形成する。その後、炭素―酸素結合を形成した中間体を1電子酸化し、再芳香化によって保護されたカテコール誘導体へと導く。放出された2電子とプロトンを金属触媒の作用によって分子水素として放出することで触媒サイクルが完結すると想定している。 一連の変換を実現するためには、酸素官能基の1電子酸化を実現する強力な光触媒の活用が鍵であると考えている。炭化水素の脱水素反応においては、励起状態において高い酸化力を有するアクリジニウム塩誘導体が光触媒として機能し、有機触媒の硫黄原子を1電子酸化することにより高反応性のチイルラジカルが発生することが反応機構解析実験により支持されている。そこでフェノールから合成したカーバメート基の酸素原子をアクリジニウム塩誘導体と可視光によって1電子酸化し、活性なオキシルラジカルを発生させることができれば、前述の形式でのオルト位酸素化反応が実現できると期待される。アクリジニウム塩誘導体は一般的な光酸化還元触媒の中で最も高い酸化力を有するだけでなく、水素発生のために肝要であるパラジウム触媒とも共存可能であることが分かっているため、本系に適切な光触媒であると考えられる。アクリジニウム塩誘導体とパラジウム塩の組み合わせを中心に初期検討を行うことにより、水素放出を伴う条件にて触媒的な炭素―酸素結合形成を実現する新規触媒系を確立する計画である。
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Research Products
(10 results)