2016 Fiscal Year Annual Research Report
炎症性腸疾患におけるプロリン異性化酵素Pin1の制御機構の解明と治療への応用
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16J09463
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
松永 泰花 広島大学, 医歯薬保健学研究院(医), 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 炎症性腸疾患 / 腸管免疫 |
Outline of Annual Research Achievements |
潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患(IBD)は腸管粘膜の慢性炎症により潰瘍やびらんが形成され、下痢や粘血便などの症状が現れる疾患である。IBDには免疫の制御異常が関与しており、特にIL-17を産生するTh17細胞とIBDの関係が注目されている。Th17細胞は上皮細胞からの抗菌ペプチド産生を誘導して感染防御の機能をもつ。一方で、Th17細胞の過剰な活性化は炎症を増悪化してIBDにいたる。Th17細胞を適切にコントロールすることが、Th17細胞に関連する炎症性疾患の治療につながると考えられる。 Pin1はリン酸化セリンまたはスレオニンの次に位置するプロリンをシス/トランスに異性化させるタンパク質であり、細胞増殖などのさまざまな細胞機能を制御するユニークなタンパク質である。Pin1はアルツハイマー病や癌などの関与以外にも免疫制御への関連が知られている。そこで、Pin1のIBDへの関与について解析を行った。 我々はPin1欠損マウスを用いたデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性炎症性腸疾患のモデル実験により、Pin1がTh17細胞の活性制御を介してIBDの発症を促進させていることを見出してきた。本研究では新たに開発した細胞種特異的Pin1欠損マウスを用いることにより、Pin1によるTh17細胞の制御機構とIBDが発症する分子機構を解明する。さらにケミカルライブラリーから新規に同定したPin1阻害剤を用いて、IBDや多発性硬化症や関節リウマチなどのTh17細胞が関与する炎症性疾患の新規治療薬開発に向けた基礎実験を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度はDSS誘導性腸炎におけるPin1による免疫細胞の制御について解析を行った。骨髄移植で作成したマウスを用いてPin1が機能する細胞種の特定を行った。その結果、WTマウスにPin1を欠損した骨髄を移植したキメラマウスではWTの骨髄を移植したキメラマウスと比較して、組織障害が顕著に緩和されていることがわかった。また、大腸上皮細胞特異的Pin1欠損マウスでは、DSS誘導性腸炎の改善が認められなかった。以上の結果からPin1は血球系の細胞で機能していることが明らかとなった。 さらに、我々はPin1の制御機構を明らかにするために大腸から粘膜固有層を単離しFACSによるマクロファージの分化の解析を行った。炎症が生じるとマクロファージはM1型に分化して炎症をさらに増悪化するが、DSS誘導性腸炎を発症したPin1欠損マウスではWTマウスと比較してM1マクロファージが減少していることがわかった。また、粘膜固有層のサイトカインの遺伝子発現を解析すると、Pin1欠損マウスではIL-6などの炎症性サイトカインやIL-17の発現は減少するのに対して、感染防御機能を有するIL-22 の発現は亢進していることがわかった。 一方で、Pin1をIBDの治療標的として新規治療薬を開発するために、新たに同定したPin1阻害剤を用いて、DSS誘導実験を行なった。その結果、いくつかの阻害剤で従来のIBD治療薬である5-ASAと比較してより強い組織障害の緩和が認められた。 以上、本年度はDSS誘導性腸疾患においてPin1が機能する細胞種を特定し、M1マクロファージの分化の誘導を促進させる機能を新たに発見した。さらに、感染防御に働くIL-22の発現を抑制させることもわかった。一方で、IBDの新規治療薬の候補をあげることにも成功したことから、本研究は当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度はDSS誘導性腸疾患においてPin1が機能する細胞種を特定し、M1マクロファージの分化の誘導を促進させる機能を新たに発見した。さらに、感染防御に働くIL-22の発現を抑制させることもわかり、Pin1がリンパ球の動態に関与している可能性が考えられた。そこで、本年度はDSS誘導性腸疾患におけるリンパ球の挙動とPin1の関連について解析を行う。 野生型マウスと Pin1 欠損マウスの腸管粘膜固有層におけるT細胞サブセットの動態をFACS により詳細に解析し、Pin1が作用する細胞を同定する。また、Pin1と細胞分化への連関、結合タンパク質についても調べる。 さらに、新規Pin1阻害剤で標的細胞のPin1の活性を阻害し、共培養系を用いてTh17 細胞制御機構の解析を行い、Pin1が細胞分化の制御に関与していることを明らかにする。IBD だけでなく Th17 細胞に連関する炎症性疾患への応用も視野に入れてマウスモデル実験を継続する。 一方で、IL-22のIBDにおける制御機構について解析を行う。IL-22による感染防御と組織再生がどのように連関して腸管の恒常性を維持するのかは未解明である。腸管上皮を構成する6種の細胞とIL-22がどのように作用して上皮、細菌叢、免疫系の均衡をとり、恒常性を維持するかも未解明である。そこで、IL-22レセプター(IL-22R)の腸管細胞特異的な遺伝子欠損マウスを用いて、IL-22による腸管恒常性維持に関与する腸管上皮の細胞種とその役割を明らかにする。また、DSS誘導性腸炎や細菌感染実験による腸炎を誘導して腸管上皮、腸内細菌叢、腸管免疫系の挙動を解析し、IL-22腸管の恒常性維持機構とIBDとの連関を明らかにする。
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Research Products
(5 results)
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[Journal Article] Reduced SHARPIN and LUBAC Formation May Contribute to CCl4- or Acetaminophen-Induced Liver Cirrhosis in Mice.2017
Author(s)
Yamamotoya T, Nakatsu Y, Matsunaga Y, Fukushima T, Yamazaki H, Kaneko S, Fujishiro M, Kikuchi T, Kushiyama A, Tokunaga F, Asano T, Sakoda H.
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Journal Title
Int J Mol Sci.
Volume: 4
Pages: -
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Role of Uric Acid Metabolism-Related Inflammation in the Pathogenesis of Metabolic Syndrome Components Such as Atherosclerosis and Nonalcoholic Steatohepatitis.2016
Author(s)
Kushiyama A, Nakatsu Y, Matsunaga Y, Yamamotoya T, Mori K, Ueda K, Inoue Y, Sakoda H, Fujishiro M, Ono H, Asano T.
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Journal Title
Mediators Inflamm.
Volume: 2016
Pages: 8603164.
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Physiological and Pathogenic Roles of Prolyl Isomerase Pin1 in Metabolic Regulations via Multiple Signal Transduction Pathway Modulations.2016
Author(s)
Nakatsu Y, Matsunaga Y, Yamamotoya T, Ueda K, Inoue Y, Mori K, Sakoda H, Fujishiro M, Ono H, Kushiyama A, Asano T.
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Journal Title
Int J Mol Sci.
Volume: 7
Pages: -
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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