2016 Fiscal Year Annual Research Report
卵割期の細胞配置パターンの定量計測と数理モデルの構築
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16J09469
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
山本 一徳 総合研究大学院大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 線虫 / 初期胚 / 力学モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、卵の形に応じて細胞がどう配置するのかを実験と力学モデルを用いて明らかにすることを目的としている。これまで主にC. elegansの胚を覆う卵殻の形状を変化させて、そのときに細胞配置パターンがどのように変化するのかを解析した。さらに、細胞の配置パターンが変化するのは細胞に働く力が原因なのではないかと仮説を立て、力学モデルの構築を通してその仮説の正否について検討した。 1.卵の形の細胞配置に対する影響を調べるため、卵の形が異なる胚の4細胞期の細胞配置を顕微鏡で観察した。卵形状を定量化して指標を作り、その指標に対してどのように異なる細胞配置が出現するのかを調べ、その出現頻度データを取得した。細胞は卵殻形状という周囲の物理的な環境に応じて多様な配置をとること、さらに、その一部の配置は変形に対する頑健性を備えていることの2点が明らかとなった。 2.1で得られた出現頻度データを再現する力学モデルの構築に取り組んだ。まず、これまでに報告されている既存のモデルで再現できるか検討した。しかしながら、既存のモデルでは卵殻形状に対する異なる細胞配置の出現傾向を正確に再現することができないことが分かった。そこで、細胞間の引力とその異方性を加えた新たなモデルを考案した。改良したモデルでは、実際の胚の細胞配置の出現頻度の傾向をより正確に再現することに成功した。 3.細胞間の引力とその異方性を生み出す分子機構を探索した。細胞接着分子であるカドヘリンの局在パターンを調べ、さらに発現阻害実験を行った。そして、カドヘリンが細胞間引力を生み出す原動力であることを示した。 以上の結果をまとめると、線虫C. elegansの胚を用いて卵殻形状の変形に対する細胞配置の多様性と頑健性を実験によって検証し、さらにその2つの性質を説明する新たな理論的な枠組みを構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
変形に対する細胞配置の多様性と頑健性という、生物が備えている一見相反する2つの性質を胚の細胞配置が備えていることを、C. elegans胚をモデルとして実験と力学モデルの両方から示すことができた。実験結果を論文としてまとめて、雑誌への投稿作業も進めている。 当初は、細胞の位置と時間変化を定量化することを目標としていたが、4細胞期の細胞の最終的な細胞配置パターンに着目することによって、C. elegansだけでなく他種線虫やその他動物種の細胞配置も説明可能な力学モデルを構築することができた。4細胞期以降の細胞配置パターンが形状に応じてどのように変化するのかを定量的に調べることは今後の課題として残る。しかしながら、C. elegansだけでなく様々な生物種の細胞配置を説明する理論的な枠組みを構築することに成功しており、さらにモデルに新たに加えた細胞間引力を生み出す機構についても明らかにすることができた。したがって、当初の計画以上に研究は進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず投稿論文の雑誌への掲載を目指す。さらに、卵の形を決めるメカニズムの解明を行うことを計画している。本研究を推進する過程でC. elegansの変異体を用いて卵の形を変えることに成功している。しかしながら、卵の形を変えることができた直接の要因については明らかにされていない。そこで、卵の形を決める要因について仮説を立て、それを検証するための実験計画を練っている段階である。この仮説はC. elegansに限らず鳥や魚、または恐竜の卵の形の多様性も説明することができる可能性がある。C. elegansをモデルにして異なる生物種間に共通する卵の形の決定機構の解明につながる可能性があることから、今後の研究の進展が期待される。
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