2017 Fiscal Year Annual Research Report
凝集体難病の克服に向けた小胞体マニピュレーション戦略
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16J09784
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
山下 ありさ 徳島大学, 大学院薬科学教育部, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 小胞体 / 凝集体難病 / クリスタリノパチー / リソソーム / CLN6 / 分子生物学 / シグナル伝達 / オルガネラ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究が目指すのは、タンパク質凝集体難病の治療戦略の創出である。異常タンパク質凝集体の形成及び蓄積は筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、アルツハイマー病などの多様な難治性疾患に共通する形態学的特徴であり、疾患の発症・増悪への関与が指摘されている。我々の研究グループは、筋肉難病クリスタリノパチーをモデル疾患とし、「小胞体膜微小環境を操作することで凝集体形成を抑制できる」ことを見出した(BBRC, 2014)。本手法は、細胞質に存在する熱ショックタンパク質クリスタリンを小胞体膜上に強制発現するものである。研究代表者らの研究で、クリスタリンと小胞体膜上に存在する分子が治療標的分子候補となる可能性が強く示唆された。本手法は従来の戦略とは異なり、凝集体形成前から対処して凝集体形成を抑制するものである。臨床応用の暁には凝集体難病の予防法確立が期待できる。この実現に向けて、本研究では分子機序の解明および汎用性の検証を行っている。平成28年度は、小胞体膜貫通タンパク質CLN6を小胞体型クリスタリンの協働分子として同定し、さらに同分子が単独でも凝集体形成抑制能を有することを実証した。平成29年度はこの成果を論文に報告し(BBRC, 2017)、続けてCLN6分子標的薬創出に向けて機能発現様式の解析を行った。機能的領域の特定に向けCLN6欠失変異体を用いた実験を行い、必要領域の候補を得た。現在はその結果に基づきアミノ酸単位での領域特定を行っている。また、CLN6と小胞体型クリスタリンの汎用性についても検証を行った。その結果、いずれの分子もクリスタリノパチーの発症要因となる他のクリスタリン変異体由来の凝集体形成、ALSの原因となるTDP-43変異体による凝集体形成に対し効果を発揮することを明らかにした。本成果により、小胞体膜微小環境操作法が広範の凝集体難病に応用できる可能性を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者の平成29年度の成果により、クリスタリノパチーの発症要因となるクリスタリン変異体及びALS発症要因となるTDP-43由来の凝集体形成に対し、小胞体型クリスタリン及びCLN6による小胞体膜微小環境操作が有効であることが明らかになった。筋肉難病クリスタリノパチー発症家系の報告により、発症に関与するクリスタリン変異個所は複数種存在することが明らかになっている。共通して罹患部細胞内への凝集体形成がみられる一方で、異なる変異を有する患者グループ間を比較すると心筋病変の有無や発症時期等に差異が生じているという事実も報告されている。これらの知見から、クリスタリノパチーの治療には「変異体に応じた治療方法」が必要となると考えられる。また、凝集体難病は疾患によって様々な遺伝子の変異がみられる。したがって個々の疾患ごとへの治療法開発が要求されており、確立に至るまでの道のりは険しいものと予想される。本成果により小胞体膜微小環境操作法が「変異個所や変異遺伝子に依らず同一治療法で予防治療が可能となりうる」ということが強く示唆された。今後の展開に非常に期待できる成果である。このように、研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
1)治療薬創出に向けて、凝集体形成抑制能を発揮するために必要なCLN6の領域をアミノ酸レベルで特定する。欠失変異体を用いた実験での大まかな機能的領域探索は平成29年度に完了している。平成30年度はCLN6の分子標的薬創出のため数アミノ酸単位で必要領域を特定する。さらに、CLN6の分子機序を追求するため、物理的に結合する分子をアフィニティ精製にて探索する。 2)CLN6以外の小胞体型クリスタリン協働分子候補群の解析を継続して行う。候補分子のスクリーニングは平成28年度に完了している。これらの凝集体形成への関与を検証し、小胞膜微小環境の持つ抗凝集体形成能発揮に必要な分子を同定する。 3)CLN6協働分子の一部は小胞体局在型クリスタリンと協働分子群中に存在する可能性が極めて高い。2)で得られた結果を基に、CLN6の機能発現への関連について検証する。 4)病原性タンパク質凝集体への小胞体操作の汎用性を検証する。これまでにALSの原因遺伝子であるTDP-43の変異体由来の凝集体形成に小胞体操作が有用であることを明らかにした。平成30年度は他の変異体由来の凝集体形成についても検証を行う。
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