2016 Fiscal Year Annual Research Report
大西祝と明治・清末の思想界――近代初期「批判」論の可能性
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16J09786
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
郭 馳洋 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 大西祝 / 批評 / 復性 / 統制的理念 / 井上哲次郎 / 現象即実在論 / 社会主義 / 明治哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度に実施した研究の成果を以下の4点にまとめた。 1.大西祝は事実と当為の次元を峻別し現実への批判的視座を持つことができたが、この「批評主義」は日清戦争直後に揺らぎが生じたことが分かった。一時「理想」を明治国家と重ね、現実と理想をほぼ合一させたよう大西だが、間もなくナショナリズムを警戒し現実と理想のギャップを取り戻そうとした。「批評主義」のこの屈折は、明治知識人の日清戦争の受け止め方を考える恰好の例ともいえる。 2.大西祝は従来、西洋哲学専門家のイメージが強かった。しかしテクストの用語に着目すれば彼の哲学はまた漢文脈の強い磁場のもとにあることが判明した。先行研究での言及は僅かしかないが、大西はその哲学の核心である「Teleological Evolution」を「性に復」るとも表現し、つまり「復性」という宋学的な概念を根底に据える。この看過されがちな漢文脈との関係への探求は、大西の哲学のもう一つの側面を提示できると期待する。 3.「目的」という理念を想定した大西祝の哲学を考えるにあたって、カントにおける二つの概念――「構成的」と「統制的」の相違の重要性が浮かび上がってきた。つまり大西のいう「目的」は寧ろ(カント的「反省的判断力」とも関係する)「統制的」理念であり、それこそ既成の諸制度への抵抗を可能にするものである。超越論的仮象であれ統制的理念が必要だとする今日の柄谷行人のカント解読にも繋がる点では非常に興味深い。 4.大西と知的基盤を共有しながら立場を異にした井上哲次郎の「現象即実在論」という哲学的言説は当時の「国体」論のみならず、「社会問題」との間にもある種の間テクスト性を持つことが明らかになった。このことは大西の社会主義論において明白に看取できる。この問題に関する考察は、当時の哲学的言説による現実への介入、異なる文脈との関わりを解明することに寄与できると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究は修士論文に基づいて大西祝論をさらに練り上げ、大西の周辺へ広げることを主とした。当初は研究の最終目標の一つとして清末の思想家との比較も視野に入れたが、研究対象を分析する際に自分の用いる諸概念およびテクストを解釈するための枠組みがまだ十分形成されていないことから、現段階では方法論およびテクスト解釈への探究を優先することにした。そのため、研究の方法論に関わる理論書の咀嚼に多くの時間を費やしたが、全体的には予定通り進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の成果を踏まえ、哲学史と批評史における大西祝の位置づけ、明治期の哲学的言説(大西の「批評」哲学と井上哲次郎らの「現象即実在論」)と他分野の言説(文学、美学など)との間テクスト性、さらには同時代の政治的・経済的・社会的状況(国家主義、資本主義、社会主義など)との関連性をめぐって考察を進めたい。その際、明治以降の近代日本思想史への展開とりわけ戸坂潤の哲学・批評思想との繋がりにも着目する。また、どのようなパースペクティブ・理論的枠組みによって研究を展開するかという方法論に関する探究も引き続き深めてゆきたい。
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