2017 Fiscal Year Annual Research Report
不活性分子の活性化を指向したキラルイミノホスホラン触媒システムの開発と応用
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16J09886
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山田 康平 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 有機分子触媒 / キラルイミノホスホラン / ラジカル反応 / アミノホスホニウム塩 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、キラルイミノホスホランによる遷移状態の構造制御を念頭に有機分子触媒による不活性分子の立体選択的変換法の開発を目指した研究に取り組み、一定の知見を得た。例えば、光触媒により一電子還元した基質のメソリティック開裂を経て生じたラジカル種とアニオンを不活性分子の変換に利用する反応系を設計し、スチレン類を基質としたモデル反応により評価を試みた。本反応では、スチレンとラジカル種が反応して生じるベンジルラジカルが一電子酸化されてベンジルカチオンを与え、これがアミノホスホニウムイオンにより捕捉されたアニオンと結合形成段階する際に立体選択性が獲得できると想定される。様々な検討を行ったが、現在のところ顕著な立体選択性の発現は見られておらず、次年度に継続して取り組む予定である。 さらに、並行してキラルイミノホスホランを触媒とする新規反応を探索する中で、アレンジエステルのラセミ化を伴ったチアゾロンのE/Z-,エナンチオ選択的なMichael付加反応を開発した。結合形成段階におけるアレンジエステルの軸不斉の影響を調べるためにDFT計算を用いてジアステレオメリックな4種類の遷移状態構造を求め、立体選択性の獲得におけるアレンの軸不斉の重要性を示唆する結果を得た。アミノホスホニウムイオンが形作る水素結合ネットワークが軸不斉の識別につながったことは、本イミノホスホランのもつ遷移状態制御能を改めて実証するとともに、今後他の反応へと本触媒を適用していく上で重要な知見であると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に引き続きキラルイミノホスホランおよびその共役酸による遷移状態の制御を念頭に反応開発に取り組んだ。今年度は、新たに不活性分子の活性化手法の戦略として光触媒による一電子酸化/還元反応を用いて発生したラジカル種を利用する研究開発に着手した。具体的には、触媒的な酸塩基を用いるイオン反応の基質としては適用が難しい単純なアルケン類を取り上げ、アミノホスホニウムイオンの水素結合による立体選択性の獲得を目指した検討を行った。現在までにラジカル―イオン型の新たな結合形成反応を見出しており、中間体として生じるキラルホスホニウム塩の力を利用した立体制御に取り組んでいるが、顕著な選択性発現は最終年度の課題として残されている。また、不活性分子の変換法の開発に並行しておこなった研究の過程で、有用な合成素子とされながらイオン反応への適用が遅れていたアレンを取り上げ、軸性不斉のラセミ化を伴うアレンジエステルへの立体選択的Michael付加反応の開発に成功した。これらの知見は有機塩基を触媒とする化学に新たな刺激を与えるものと考えている。また、従来まで検討されてこなかったアレンの軸不斉が炭素炭素結合形成時の立体選択性に与える影響についてDFT計算を用いた理論化学的アプローチにより調べ、動的速度論的光学分割を経て反応が進行している可能性を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に開発したアレンジエステルに対する立体選択的なMichael付加反応において、選択性の起源や反応性の理解を志向したDFT計算による理論化学的なアプローチから得られた知見を基に、アミノホスホニウムイオンの持つ独特な遷移状態制御能を活かした新規反応探索を行う。例えば、本反応ではアレンの軸不斉が異なるジアステレオメリックな遷移状態構造間のエネルギー差が大きいことが判明しており、アレンの速度論的光学分割が起こっていることが示唆されたため、今後種々の電子求引性基を有するアレンに関して反応を行い、アレンの光学分割へと展開することでホスホニウムイオンのさらなる機能開拓へ取り組む。さらに、光触媒を用いて発生したラジカル種を用いた不活性分子の変換を目指した研究では、現在までに見出しているラジカル-イオン型の新規反応に関してさらに反応条件を精査し、アミノホスホニウム塩の骨格が反応系に与える影響について調べる。また、ホスホニウムイオンの水素結合を介したより大きな相互作用の見込めるオキソニウムイオンやイミニウムイオンを反応中間体とする基質へと適用する過程で、反応機構に対する理解を深め、ラジカル反応における選択性の獲得を目指す。
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