2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J10031
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
姫岡 優介 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | ラグタイム / 飢餓状態 / 細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞成長のエネルギー論を構築するため、本研究ではエネルギー効率が高いと言われているLag Phase,Stationary Phaseにおける細胞成長理論の研究を行った。その結果、下記の結果を得た。 (1). 3通りの「成長相」の実現、細胞成長曲線の再現:作成した細胞モデルの定常状態を計算することにより、モデルは3通りの「相」を示すことが分かった。また、バッチ培養環境を模した数値シミュレーションの実施により、細胞の成長曲線も再現することが出来た。これらの結果より、定常状態で得られた3つの相は相は微生物の成長曲線におけるExponential,Stationary,そしてDeath Phaseにそれぞれ対応していると考えられる。 (2). ラグタイムの現象論的法則の発見とそのメカニズムの解明:貧栄養状態に置かれた飢餓状態細胞を富栄養な培地へ移植すると、成長を再開するまである時間がかかることが広く知られており、「ラグタイム」と呼ばれている。ラグタイムが飢餓時間などに伴いどのように増加していくかということはこれまで理解されていなかったが、本研究によりラグタイムは飢餓時間の平方根で増大すること、また最大成長速度に反比例していることが明らかになった。これらの結果は実験とも整合し、また理論解析によりそのメカニズムも新たに提案することが出来た。 (3). 新たなラグタイムの分布を発見:確率的シミュレーションにより、本モデルにおけるラグタイムの分布を計算した。その結果、従来理論的に予言されていた正規分布とは大きく異なる分布が得られた。この分布は近年高精度の実験により新たに報告されたラグタイムの分布と非常に良く一致する。新たなラグタイム分布が出現するメカニズムも、本モデルのラグタイムと飢餓時間の関係式、ならびに少数性効果の解析により明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで、現象論的モデルによる細胞の研究は指数関数的増殖期(Exponential Phase)に限られていた。しかしLag PhaseやStationary Phaseは細胞が低成長状態で自己維持を図っている相であると考えられ、すなわち非常にエネルギー効率の優れた成長相である。そのためこれらのPhaseにおいて成立する普遍法則の解明は細胞のエネルギー論を構築する上で必須であると考えられるが、本年度に行った研究により、これを達成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度において、細胞の低成長速度における理論を構築することができた。高成長速度領域におけるエネルギー論の構築も行いつつ、次年度(29年度)においては28年度に彫られた理論をより発展させ、低成長速度領域におけるエネルギー効率に関する理論構築を行う。 また、より発展的な課題として「老化」理論へのアプローチも計画している。
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