2016 Fiscal Year Annual Research Report
微細マイクロ波回路を利用した相対論的マグノニクスの研究
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16J10076
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井口 雄介 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | マグノン / マグノニクス / マルチフェロイクス / マイクロ波 / 表面弾性波 / トロイダルマグノン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、空間と時間反転対称性が同時に破れた系(例えば、強誘電磁性体であるマルチフェロイクス)において、磁気励起(マグノン)に現れるスピン軌道相互作用を起源とした相対論的な効果を利用した新たなマイクロ波機能の開拓を目的としている。マグノン励起は古くからアイソレータなどマイクロ波素子へと活用されてきた。マイクロ波工学は通信や無線給電など現代においてますます重要になってきており、本研究によって低エネルギーマグノンの新たな性質が明らかになればそれを基にした新しいマイクロ波デバイス原理へとつながる可能性も大きい。平成28年度の主な研究成果は、以下の3点である。
(1)キラル磁性体CuB2O4における非相反マイクロ波伝搬の測定を行った。スピン軌道相互作用を起源とした磁気キラル効果と古典的磁気双極子相互作用を起源とした二つの非相反性の共存を観測し、磁場方向に対するこれらの共存した非相反性の振る舞いを明らかにした。本成果により、磁気双極子相互作用とは異なる相対論効果に由来するマイクロ波非相反性の性質が明らかになった。 (2)強誘電磁性体Ba2Mg2Fe12O22における非相反なマイクロ波伝搬の測定を行った。この物質はスピンが円錐状にらせん構造をつくることで空間反転対称性を破り自発的な電気分極を持つ。この物質のトロイダルマグノンを起源とした非相反応答の観測に成功した。また、ポーリング電場によって電気分極を反転させることで電気的に非相反マイクロ波伝搬を反転させることにも成功した。本成果により、非相反なマイクロ波伝搬の電気的制御が実現した。 (3)表面弾性波デバイスとして実用化もされている圧電物質LiNbO3と強磁性薄膜Niの人工的なマルチフェロイクスを作成することで、本来非相反応答を示さない表面弾性波の非相反伝搬の観測に成功した。本成果により、マイクロ波領域における非相反な表面弾性波が実現した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度、申請者が主体的に取り組んだのはマルチフェロイクスBa2Mg2Fe12O22におけるマイクロ波非相反性の電場制御である。マルチフェロイクスにおける電気磁気効果(電場誘起の磁化および磁場誘起の分極)がマイクロ波領域に拡張されると屈折率が波数の正負に依存する非相反性が発現することが知られている。申請者はマイクロ波非相反性の電場制御を初めて達成し、成果をNature Communications誌に発表する予定である(掲載決定)。また、共同研究として取り組んだCuB2O4におけるマイクロ波マグネトカイラル効果、Ni/LiNbO3二層デバイスの非相反表面弾性波伝搬にも成功してそれぞれJ. Phys. Soc. Jpn.誌(Editors’ Choice)、Phys. Rev. B誌(Rapid Communication)に発表された。以上の成果は、当初予定していた期待通りの結果と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、これまでの2倍の高周波数領域での測定を行い、非相反応答の巨大化やマルチフェロイック反強磁性物質における非相反応答の外場制御を行う予定である。また、微細加工を使った非相反マグノン伝搬の電気的制御やマグノンが運ぶ電気分極の直接的な観測も同時に行う予定である。
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