2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16J10099
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
池田 龍志 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 階層型運動方程式 / 散逸系 / 非線型分光 / 多次元分光 / 光異性化 |
Outline of Annual Research Achievements |
二次元電子分光は凝縮層中における輸送問題や環境・コヒーレントの効果を検出するための実験的手段として近年盛んに用いられている。しかし、モデル計算は多次元分光法の解析に必要不可欠であるにも関わらず、非断熱遷移過程を持つ量子開放系についてはポテンシャル面に調和近似を用いた簡易なものしか確立されておらず、光異性化問題のような非調和性を無視できない系に対する計算手法はなかった。そこで本研究ではこのような系において二次元電子分光を計算可能な方法論を確立し、解析の指針を与えることを目標とした。 28年度は量子フォッカー・プランク方程式、量子階層フォッカー・プランク方程式を一自由度多準位系に拡張し、その数値解を求めるプログラムの作成を行った。この計算は量子系の非局所性や電子状態・核運動・熱浴それぞれの非常に異なったタイムスケールの混在によりコストが高く、新たな数値計算技法・近似やプログラムの高速化が必要とした。このため、GPU(グラフィック・プロセッサー・ユニット)を利用した並列計算の実装を行い、また数値離散化の方法を工夫して高速フーリエ変換を導入し、数値積分の評価の高速化を行った。 作成したプログラムを用い、熱平衡状態、励起状態ダイナミクス、分光的観測量の数値計算を行った。特に過渡吸収スペクトル・二次元相関スペクトルのプロファイルと波束ダイナミクスを照らし合わせ、ピークの形状や時間に伴った変化からダイナミクスに関する詳細な知見が得られることを示した。また、二次元相関スペクトルにおいて、電子状態がコヒーレントとなっている波束の運動に基づく干渉縞のようなピークが現れることを示し、これが線形・過渡吸収には現れず二次元相関スペクトルまで踏み込んで初めて観測できる物理現象であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた多準位量子フォッカー・プランク方程式、多準位量子階層フォッカー・プランク方程式の高精度・高速解法の作成と実装は完成した。またこれを用い、凝縮層中の光異性化問題のシンプルなモデルについて二次元電子分光を計算し、その性質の基本的な解釈を構築した。また散逸の性質と遷移ダイナミクスの対応についても位相空間上の分布関数を用いることで上手く説明できることを示した。 これらの成果について、分子科学討論会・日本物理学会秋季大会にて口頭発表を行った。また、5月下旬と2月下旬にそれぞれ分子科学研究所と英国リーズ大学にてセミナーを行った。またこの成果を論文にし、現在雑誌 The Journal of Chemical Physics に投稿し査読中である。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度は従来の枠組みに近い状況で方法論をデモンストレーションし、足場を固めることを目標としたため、ポテンシャル面が著しく非調和性を持つ系や非線形な系-熱浴相互作用についてはこの方法論で取り扱えるにも関わらず扱わなかった。そこで29年度の研究においては光駆動分子モーター系のような非調和ポテンシャルで定義される系を扱い、近年重要視される振動位相緩和(これは非線形な系-熱浴相互作用で記述される)を取り入れた計算を行い、これらの性質が異性化過程にどのような影響を及ぼし、高速非線型分光でどのように検出されるかを明らかにする。 また28年度の研究ではモデルの厳密解を導ける階層型運動方程式のみを取り扱ったが、この方法論はどうしても数値計算コストが高く、簡単なモデルしか取り扱えないという欠点がある。そこで29年度ではサーフェイスホッピング法などの広く用いられる近似的・経験的方法論について非線型分光計算を比較し、系のどのような性質については近似的・経験的方法論で十分なのか、あるいはどのような性質については厳密な方法論が必要なのかを検討する。この研究により、理論的に二次元電子分光実験の結果を解析するときの方法論の指針が建てられると期待できる。
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