2016 Fiscal Year Annual Research Report
近未来気象データを用いた建築・都市設計の気候変動適応策
Project/Area Number |
16J10169
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
有馬 雄祐 東京大学, 生産技術研究所, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 将来気象データ / 標準設計用気象データ / 力学的ダウンスケーリング / 標準気象データ / 設計用気象データ / バイアス補正 / 建築熱負荷計算 / クオンタイルマッピング |
Outline of Annual Research Achievements |
気候・気象モデルにより予測された将来解析気象データを活用し、気候変動を考慮した建築設計や研究を可能にするための建築熱負荷計算用の将来気象データを作成することが本研究の中心的課題である。この課題を達成するため、1.気候・気象モデルの力学的ダウンスケーリングにより得られた解析気象データを建築熱負荷計算用の気象データとして活用するためのバイアス補正手法の開発、2.高性能な建築熱負荷計算用の気象データ作成の手法を提案しその性能検証を実施した。 1.力学的ダウンスケーリングで得られた気候・気象モデルの出力値を建築熱負荷計算用の気象データとして直接的に活用する場合、何かしらのバイアス補正が必要となる。バイアス補正は目的に応じた手法が採用されるが、建築熱負荷計算用の気象データのための手法は存在しない。特に全天日射量は複雑な形状の頻度分布となるめ、正規分布を仮定した補正が不適切となる。そこでクオンタイルマッピングと呼ばれる手法を活用し全天日射量のバイアス補正手法を開発した。 2.建築熱負荷計算用の気象データには平均的な熱負荷を算定するための標準気象データと最大熱負荷を算定するための設計用気象データの主に二種類が存在する。こうした手法は建築熱負荷計算用の将来気象データを作成する際にも使用されるが、既存の手法に基づく気象データの熱負荷予測性能は完全であるとは言えない。そこで標準設計用気象データ(TDWY)と名付けた標準気象データと設計用気象データの両方の用途を兼ねた年間気象データを提案した。TDWYの各気象要素の確率密度関数は複数年の観測気象データのそれと完全に一致する。また建築熱負荷計算によりTDWYの熱負荷予測性能を検証した結果、TDWYを使用すれば最大熱負荷を高精度で予測でき、また従来の標準気象データに比べて倍ほど高精度に平均的な熱負荷の予測が可能である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、気候・気象モデルにより予測された将来解析気象データを活用し、1.建築設計や研究において気候変動を考慮するための建築熱負荷計算用の将来気象データを作成すること及び、2.これによる気候変動の建築分野への影響評価を目的とする。 1.将来気象データの作成に関しては、クオンタイルマッピングと呼ばれる手法を活用した気候・気象モデルの解析値を建築熱負荷計算用の気象データとして応用する際に適切なバイアス補正手法を確立した。このバイアス補正手法を適応することにより、気候・気象モデルが予測した将来解析気象データを高い信頼性をもって建築熱負荷計算へと使用する事が可能となった。また同手法を活用し、標準設計用気象データ(TDWY: Typical and Design Weather Year)と名付けた従来の標準気象データよりも倍ほど高い熱負荷予測性能をもつ建築熱負荷計算用の年間気象データを提案した。またTDWYは設計用気象データとしても活用でき、これを使えば高い精度で最大熱負荷の推定が可能である。こうした手法は将来気象データ作成においても必要となるため、本手法により信頼のある将来気象データの作成が実現される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は1.建築設計や研究において気候変動を考慮するための建築熱負荷計算用の将来気象データを作成すること及び、2.これによる気候変動の建築分野への影響評価を目的とした研究であり、これまでは主に力学的ダウンスケーリングにより得られた解析気象データを建築熱負荷計算用の気象データとして活用するための研究を進めてきた。今後、これら作成した将来気象データを使用し、気候変動が建築熱負荷計算や建築設計へ与える影響評価を実施する。 領域気象モデルの解析では解像度の粗い全球気候モデルでは困難な都市・建築スケールの変化を考慮した将来予測が可能である。そこで本研究で活用している領域気象モデルの特性を活かし、土地利用の変更(都市形状の変化)、都市キャノピーモデルの組み込み(屋上緑化、設備機器の省エネ性能の変化)、気象条件に応じて建築の排熱量を決定するBuilding Energy Model を使用し、建築・都市の変化を考慮した将来気象データを作成する。また、これら将来気象データを活用することで、単なる将来予測に留まらず、気候変動への積極的な緩和策・適応策を実施した都市シナリオの作成を進めてゆく。
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