2017 Fiscal Year Annual Research Report
細胞極性によるシロイヌナズナの雌性配偶体構成細胞の運命決定機構の解明
Project/Area Number |
16J10254
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
四方 明格 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
Keywords | 雌性配偶体 / 細胞運命決定 / 細胞極性 / リン脂質 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の雌性配偶体の発生では、1つの半数体細胞が核分裂を三度経た後に多細胞化し、それぞれ特徴的な機能を持つ4種もの細胞が創り出される。この4種の細胞のうちのどれに分化するのかは、細胞化前(多核時)の雌性配偶体内で核がどこに位置していたかという情報、つまり細胞内の極性情報に基づくと考えられている。本研究は、どのような極性情報が雌性配偶体を構成する細胞の運命決定を制御しているのかを明らかにすることを目的としている。 細胞極性の指標として細胞内におけるリン脂質の不均等分布が知られるが、平成28年度は、雌性配偶体発生においてもリン脂質が関与するのかを検証するため、リン脂質の生合成・代謝阻害剤の効果を調べた。観察の容易なトレニア胚珠を用いた解析を行い、細胞膜を構成する幾つかのリン脂質が、雌性配偶体の発生に関与する事を見出した。そこで本年度は、実際にそれらのリン脂質が雌性配偶体内で極性を形成し得るのかを、ライブイメージングにより調べた。 まず、生体内で特定のリン脂質に結合する蛍光蛋白質マーカー(リン脂質バイオマーカー)を、マイクロインジェクションによりトレニアの未熟胚珠へ一過的に導入し、発生に伴うマーカーの動態を追うことを試みた。しかしながら、未熟胚珠へのマイクロインジェクションは技術的に困難であり、他の手法への転換を迫られた。そこで、シロイヌナズナにおいて確立されているリン脂質バイオマーカー発現系統を入手し、その胚珠の観察を行った。その結果、候補リン脂質のうちの一つが、雌性配偶体の細胞膜上に偏りをもって蓄積することが見出された。さらに、この蓄積は雌性配偶体の発生に伴い変化した。以上のことは、このリン脂質が雌性配偶体の発生と密接に関わる事を示唆する。これまで雌性配偶体内で極性形成に関わる物質の正体はわかっていなかったが、その実体がリン脂質であることが示唆される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に雌性配偶体発生への関与が見出されたリン脂質の候補から、雌性配偶体内で偏って蓄積するもの、つまり極性を示すものを実際に特定することができた。これは、雌性配偶体内の細胞極性の分子実体に迫る結果である。雌性配偶体発生に重要なリン脂質を特定できたことで、その時空間的制御に関わると考えられる生合成・代謝酵素の解析を行う事が可能となった。また、リン脂質の下流で働く制御因子の探索に取り掛かる道筋が見えた。以上の事から、進捗状況を上のように判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
雌性配偶体の発生と密接に関わるリン脂質を特定できたことから、今後はそのリン脂質の極性が雌性配偶体内においてどのように確立・維持され、また発生に伴う変化がどのように制御されているのかを調べる予定である。具体的には、リン脂質の生合成・代謝酵素のうち、シロイヌナズナの雌性配偶体で発現するものを特定し、それらの雌性配偶体発生における機能を調べる。また、リン脂質の下流で働く細胞運命決定の制御因子の探索を行う。
|