2016 Fiscal Year Annual Research Report
ドナーアクセプター系のねじれを鍵とする機能性色素および光レドックス触媒の創製
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16J10324
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
佐々木 俊輔 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 凝集誘起発光 / 粘度応答性蛍光 / 円錐交差 / 分子幾何 / 光物理過程 / 蛍光センサー |
Outline of Annual Research Achievements |
9,10-ビス(ピペリジル)アントラセンで見られた凝集誘起発光を理論・実験の両面から検討し、多環式芳香族に凝集誘起発光・粘度応答性蛍光を付与させる為の普遍的な分子設計指針を確立した。9,10-位に様々な電子供与・求引基、又は種々のジアルキルアミノ基を有するアントラセン誘導体を合成し、その構造―光物性相関を多角的に解析した。その結果、強くねじれたジアルキルアミノ基を多環式芳香族のパラ位へ導入することで、高速の内部変換が引き起こされ、これが凝集誘起発光の鍵となっていることを明らかとした。理論化学計算(協力:京都大学諸熊研究室)の結果、この置換基は多環式芳香族のS1/S0円錐交差を大きく安定化させていることが明らかとなった。そこで強くねじれたジアルキルアミノ基をパラ位に配置するという設計戦略をナフタレン系にも適用したところ、非常に劇的な凝集誘起発光・粘度応答性蛍光が見られた。 次に、上述の研究より得られた知見を高分子材料に応用した。まず、パラ位に強くねじれたジアルキルアミノ基を有する多環式芳香族のアルキル基末端を官能基化する合成化学的手法を開発した。そしてこれをN-イソプロピルアクリルアミドと共重合することで、32 oC付近で蛍光強度が著しく増大する温度センサーの開発に成功した。また上述の研究で得られた量子化学的知見を生かし、クロロホルム中でのみ非発光性となり高速で分解する、高蛍光性ナフタレン誘導体を開発した。これを架橋剤として用いることで、環境汚染物質である1,1,1-トリクロロメチル化合物存在下でのみ消光および光分解を示す高蛍光性ゲルの開発に成功した。 光触媒研究では、強くねじれたドナー・アクセプター構造を有するスピロビフルオレン類縁体が長寿命燐光の鍵となっていることを突き止めた。また時間分解ESR測定の結果、ππ*性の三重項が効率よく生成していることを明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初、強くねじれたD-π-D型色素のコンホメーションとその光物理的性質の相関解明を計画していた。これに対し、様々なモデル化合物の検討、詳細な光物理的性質の評価や計算化学的アプローチを行い、その結果「強くねじれたジアルキルアミノ基を向かい合うように導入することで、多環式芳香族にも凝集誘起発光・粘度応答性蛍光を付与できる」という分子設計を得るに至った。従って本年度の計画は概ね達成したといえる。 本年度はこれに加え、得られた分子設計指針をナフタレンに適用し、凝集誘起発光・粘度応答性蛍光を付与させることに成功した。開発したナフタレン誘導体は既報の凝集誘起発光色素の中でも最小の分子量を有し、高効率固体発光といった優れた性質を併せ持つ。さらに、本年度に開発した色素群および得られた知見を高分子材料にも応用し、特定の温度領域および化学種に応答する蛍光センサーの開発に成功した。これらの成果は当初平成29・30年度に目指す予定のものであり、当初の計画よりも大幅な進展があったといえる。 これらの研究成果は全て論文としてまとめ、学術誌に報告した(内1報は平成29年4月17日掲載確定の為、平成28年度の論文には含めなかった)。このうち分子設計指針に関するものは、その学術的重要性が評価され米国化学会誌(JACS)に掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度においては当初の計画以上に研究が進展した。本研究の目的である発光メカニズムの解明および分子設計指針の確立については概ね達成したといえる。来年度も他のシンプルな多環式芳香族へ本分子設計指針を適用できるか吟味する予定である。 一方で本研究の土台となっている「分子幾何構造を利用した機能発現」に関し、現状対象としている物質群は、炭素・水素・窒素・酸素からなるごくごく一般的な有機化合物のみである。分子幾何構造を利用することで電子状態間の相互作用をコントロールするといった考え方は、これら古典的な有機化合物のみならず幅広い物質群に適用可能な筈である。 そこで今後はより様々な物質群に関し、分子幾何構造を利用した光および電子物性の創出を目指していきたいと考えている。
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