2016 Fiscal Year Annual Research Report
脳組織内精密ターゲティングを目指した薬物送達キャリアの開発
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16J10734
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
堀 真緒 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 血液脳関門 / ブロック共重合体 / ポリイオンコンプレックス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、血液脳関門(BBB)を効率よく通過し、かつ脳組織内の標的細胞・部位に到達可能な薬物送達キャリアプラットフォームを構築することである。昨年度は当初の年次計画通りに【1】還元環境応答能を有するポリイオンコンプレックス(PIC)型ミセルプラットフォームの調製と【2】セカンドリガンドの選定と導入に関する研究を遂行することができた。さらに、その成果を国内外の複数の学会において発表したほか、それに先立って国際特許出願を行った。以下に研究実施状況の詳細を述べる。 【1】脳実質内ではグルタチオンの濃度が血中に比べて高いことが知られている。これを利用して、還元環境下で開裂するジスルフィド結合をブロック共重合体内に導入し、還元環境応答性を有するPIC型ミセルプラットフォームの開発を行った。実際にその還元環境応答能を確認したところ、脳実質内に相当する還元環境下において1時間程度で全てのジスルフィド結合が開裂することを確認した。一方で、血管内に相当する領域ではそのような変化は確認されなかったことから、血流中ではその構造を安定に保持し、脳実質内へと集積した後にジスルフィド結合が開裂するという還元環境応答能を有するPIC型ミセルプラットフォームを調製することに成功した。 【2】先行研究の問題点であった、BBB突破後に脳実質内において細胞に積極的には取り込まれず広範に分布してしまうというという点を改良するため、脳実質内での細胞取り込みを促進し、細胞種や部位の選択性付与するセカンドリガンドを選定・合成し、これをブロック共重合体の末端に結合させた。これらを用いて各種リガンドを様々な割合で表面に有するミセルを調製した。神経細胞や脳切片を用いてそれらのミセルの効果を評価したところ、特定のリガンドを用いた場合に細胞取り込みが促進されることがわかり、現在はその選択性についても詳細な評価を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
還元環境応答能を有するPIC型ミセルプラットフォームの開発に関しては、ブロック共重合体の合成とミセルの調製、およびその還元環境応答能を確認するまでに至っており、当初の計画通りに進行していると言える。 セカンドリガンドの選定と導入に関しても、複数種類のリガンドを選定し、化学的・生物学的手法による合成が完了している。これらをブロック共重合体に結合させ、リガンドを結合していないブロック共重合体と混合することによって、様々な割合でリガンドをその表面に有するポリイオンコンプレックス型ミセルの調製が可能である。一方で、神経細胞の初代培養および脳切片の作製・培養手法を修得し、リガンド搭載ミセルの標的能の評価に使用することが可能となった。これらを用いて、すでに一部のリガンドについてはその取り込み促進効果を確認している。現在、細胞種や部位選択性に関する詳細な評価と、各種リガンドの表面密度の最適化について検討を行っており、おおむね当初の予定通りに進行していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に開発した還元環境応答能を有するPIC型ミセルプラットフォームについては、細胞を用いたin vitroの系やモデル動物を用いたin vivoの系で更なる評価を進めていく。最終的にはモデル動物の脳内における分布を先行研究と比較する。 昨年度に調製した各種リガンド修飾ミセルについては、既に実験を進めている神経細胞や脳切片を用いた評価系によって、細胞種や部位選択性に関するより詳細な効果を評価していく。具体的には、マウス胎児から脳片を採取し、適切な分離手法により、ニューロンやアストロサイトといった神経系細胞を単離、または薄切切片を作製し、それぞれ適切な条件下で培養を行う。これらに蛍光標識化したリガンド修飾ミセルを接触させ、免疫染色を施すことによって各種細胞への取り込み効率を評価する。また、同様の手法によって、各種リガンドの表面密度の最適化についても検討を行う。 上記の評価系による最適化を行った後、それらのリガンドで修飾したミセルをモデル動物に投与することによって、その血中滞留性や臓器分布を評価する。また、in vivoリアルタイム共焦点レーザー顕微鏡を用いることで、ミセルの血中での状態や脳への移行プロセスを非侵襲的かつ経時的に観察する。さらに、脳組織切片を作成し免疫染色を施すことで、蛍光顕微鏡観察によりミセルが集積した細胞種・部位を確認し、そのin vivoでの標的能を評価する。
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