2016 Fiscal Year Annual Research Report
皮膚表面付着物高感度分析のための脱離/イオン化デュアルプラズマ質量分析装置の開発
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16J10852
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
相田 真里 東京工業大学, 大学院総合理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 大気圧プラズマ / 質量分析 / 低温プラズマ / 有機・無機分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
私の研究では,手で触れるほど低温なプラズマを,皮膚をはじめとした熱に弱い基質に照射することで,プラズマ中で生成される反応性の高いラジカル等の活性種によって表面付着物を脱離します。さらに,大気中に含まれる微量な水分から生成されるプロトンを脱離物に付与することでイオン化を行い,質量分析装置にガス流で導入することで,質量分析を行います。1年目の研究計画である,脱離とイオン化の基礎特性調査において,プラズマ中の活性種によって表面付着物が脱離され,イオン化される現象について,詳細な調査を進めてきました。その結果,イオン化の過程で,大気やガスボンベ中の微量な水分から生成されるプロトンが,質量分析の信号強度に大きく影響を与えることを明らかにしました。様々な表面付着物を,湿度等が異なるあらゆる環境において高感度な分析を行うためには,付着物のイオン化を安定にさせることが必要であり,イオン化のメカニズムの解明にもつながると考えました。そこで,付着物のイオン化に必要なプロトンの量を制御するため,大気中やプラズマガス中の水分を除去した後,少量の水素を添加することでプロトンの量を制御する手法を開発し,従来よりも安定かつ高感度な分析の実現に成功しました。水素をプラズマ中に添加することで,プロトンを生成しイオン化に適用する手法は,国内・海外でもあまり研究されておらず,この研究成果を,国内学会3件,国際学会1件で発表し,学会賞を1件受賞しました。さらに,この成果を高く評価され,国際会議で招待講演を行いました。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,表面付着物の脱離とイオン化過程について詳細に調査することを目標に下記に示す①~⑦のような流れで研究を進めました。 ①,表面付着物の脱離とイオン化を行うためにふさわしいプラズマ源の開発②,実験に必要な,プラズマ源を質量分析装置と接続するためのパーツや付着物が拡散しないようにするためのセル装置,付着物を塗布するための試料台などを,テフロンロッド等の素材を購入して,大学の敷地内にある工作室で自らの手で,何度も試作を行いました。③,試作したプラズマ源装置を用いて,様々な有機物の標準試料の質量分析を行いました。④,いくつか試作したプラズマ源装置を使って,最も表面付着物の質量分析に適した装置を選び抜き,精密加工センターに外注することで,寸法などの観点からさらに精度の高いプラズマ源装置を完成させました。⑤,外注して完成させたプラズマ源装置を用いて,有機物の標準物質を再び分析し,データの解析と考察を繰り返しました。⑥,⑤より,プラズマを表面に照射し,付着物の脱離とイオン化を行う過程において,イオン化は,周囲の湿度に影響されることを明らかにしました。⑦,⑤,⑥の実験データと考察から,さらにイオン化の過程を詳細に調査するために,プラズマ中に水素を添加する新たな手法を考案し,実験を行いました。 以上,①~⑦により,表面付着物の分析に必要なプラズマ源や,パーツ,分析装置の製作を完成させ,試料の分析にも成功することができました。 また,今年度中で得られた成果を,国内・国際会議で発表することで,受賞もすることもできました。さらに,私の研究成果は異分野の方からも高い評価をいただき,招待講演の依頼も受けることができ,順調に研究を進めることができたと考えます。
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Strategy for Future Research Activity |
まず,今年度で得られた研究成果を論文2報にまとめます。 来年度は,今年度に製作した装置を用いて,基礎特性調査と実サンプルの分析を行う予定です。プラズマのガス種によって,生成される活性種は異なるという研究データがあります。そのため,プラズマを生成するガスの種類を変化させ,試料の質量分析を行うことで,表面付着物の脱離に与える影響を詳細に調査し,脱離のメカニズムの解明に貢献できると考えます。さらに,プラズマを生成する電源の電圧や周波数等のパラメータの変化による影響も併せて調査していきます。その際に,試料の化学的,物理的特性の違いからも,脱離とイオン化の影響を調査するため,様々な分子量や官能基の違いをもつ試料の質量分析も行う予定です。 また,今年度の学会や研究会で,大学関係者や企業の方からいただいたアドバイスをもとに,様々な現場でも高感度に分析を行うことができる装置の改良・開発も行います。来年度で得られた研究成果を,国内学会3件,国際会議1~2件で発表を予定しています。
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