2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16J10893
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
水野 麻人 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 3次元結晶 / ラジカル / 有機磁性体 / スピンフラストレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、立体的なπ共役系を有する三角形型の電子アクセプター分子naphthalene diimide-Δ(NDI-Δ)を用いて3次元ラジカル結晶の作製と物性の詳細な検討を行った。本研究で対象としている3次元結晶「K4結晶」では、バンド計算の結果、興味深い特徴(金属的基底状態、ディラックコーン、二重縮退したフラットバンド)が予見されるため、これらの実験的実証を目指した。このK4結晶は、常圧での磁気・電子特性評価の結果から局在電子系であることが判明したため、金属状態を誘起するため高圧下(-1 GPa)での物性測定を行なったが、常圧との顕著な違いは見られなかった。バンド構造実証のためには、より高圧での構造、物性の評価が必要である。 以上を踏まえて、局在電子系という観点からこのK4結晶の物性を明らかにするため、結晶化条件を検討し、NDI-Δの価数と不対電子が作る格子の関係について考察したところ、不対電子が作る格子がハイパーカゴメ格子に対応することが明らかとなった。ハイパーカゴメ格子は3次元のスピンフラストレーション系であるため、磁気特性にフラストレーションの影響が現れると期待できる。この系に対して、極低温までの磁化率、比熱、NMR測定を行ったところ、長距離秩序を示さなかったことから、スピンフラストレーションの影響によりスピン液体状態になっていることが示唆された。来年度は、バンド構造実証のため、より高圧での構造、物性の評価を検討するとともに、新たな3次元結晶を作製し、スピンフラストレーションの物性への影響について詳細に検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三角分子NDI-ΔがつくるK4結晶の作製条件を検討し、その結果得られたNDI-Δの価数の情報と磁気・電子特性評価の結果から、この結晶中の不対電子が作る格子がハイパーカゴメ格子に対応することを見出した。これは、分子性ラジカルがつくる初めての3次元スピンフラストレーション系であることがわかった。スピンフラストレーションの影響について調査するため、極低温までの磁化率、比熱、NMR測定を行ったところ、この系がスピン液体状態であることを示唆する結果が得られた。当初の目的であるバンド構造の実証には至らなかったが、局在電子系という観点から三角分子がつくる3次元結晶(K4結晶)の特異な物性(スピンフラストレーション)を明らかにしつつある。以上のことから、おおもね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
三角形型分子を用いた3次元結晶の構築は、系統的な構築が困難である3次元スピンフラストレーション系の新しい構築手法となりうる。今後、K4結晶以外の新たな3次元結晶の構築及び電子・磁気特性等の評価を行い、3次元構造とスピンフラストレーションが物性へ与える影響の相関について考察する。 また、K4結晶のバンド構造実証に向けて、引き続き高圧下での構造、物性の変化について検討する予定である。
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Research Products
(7 results)