2016 Fiscal Year Annual Research Report
プラナリアはなぜ全能性幹細胞を成体になっても維持できるのか?
Project/Area Number |
16J10960
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 勇輝 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 全能性幹細胞 / プラナリア / 幹細胞ニッチ |
Outline of Annual Research Achievements |
先行研究において、成体になっても全能性幹細胞を全身に保持しているプラナリアでMTA1 (Metastatic Tumor Antigen 1)の相同遺伝子をRNAiにより機能阻害したところ、全能性幹細胞の正常な移動が阻害され、一部の樹状の間充織組織にのみ密集して局在するようになった。この機能阻害個体では、通常の個体と同様に全能性幹細胞マーカー遺伝子と細胞周期S期マーカー遺伝子が発現していたが、個体を切断しても再生することができなかった。よって、MTA1機能阻害個体において全能性幹細胞が密集していた樹状の領域は、幹細胞が未分化状態を保ちながら自己複製し、分化が抑えられている領域、すなわち幹細胞ニッチではないかと示唆された。 本研究では、この樹状領域が幹細胞ニッチであるかどうかを確かめ分子基盤を解明し、さらに幹細胞ニッチがプラナリアの発生のどの時期から形成されるかを確かめることによって、プラナリアがなぜ成体になっても全能性幹細胞を維持できるのかを明らかにすることを目的とした。 平成28年度において、申請者は幹細胞ニッチと考えられる樹状領域内に存在する全能性幹細胞は無脊椎動物のギャップ結合構成因子であるinnexin-bを高発現し、イオンチャネル共役型ATP受容体であるP2X-Aを発現しておらず、樹状領域から出るとinnexin-bの発現が失われ、P2X-Aを高発現するという分子モデルを示唆した。さらに、リュウキュウナミウズムシを用いた胚発生観察により、胚の直径が500μm以上になった胚発生後期において幹細胞が存在しない領域が観察されるようになり、幹細胞ニッチは胚発生後期に形成されるのではないかと示唆された。これらの結果は成体内で全能性幹細胞を維持し、再生を可能にする分子基盤を解明するために極めて重要な知見である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、平成28年度中に幹細胞ニッチの分子実態を明らかにする計画であった。実際に、本研究ではまだ幹細胞ニッチの実態は解明できていないものの、幹細胞ニッチ内に存在する全能性幹細胞と幹細胞ニッチ外にいる全能性幹細胞を分子生物学的に区別できるモデルを提唱することができた。この分子モデルとFACSを用いることによって、幹細胞ニッチの実態を明らかにできる可能性が高い。現在プラナリアにおけるFACSの条件検討が行われている最中であり、今後の進展が期待される。 また、平成29年度に行う予定であったリュウキュウナミウズムシを用いた胚発生観察による幹細胞ニッチの動態解析を前倒しして開始し、幹細胞ニッチが形成されていると考えられる発生段階を特定することができた。これにより、平成29年度に行う予定だった計画が既に大きく進展していることになる。 以上の結果から、当初の計画通りではないものの、全体を通して見れば研究は大きく進展しており、研究計画はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の成果により、幹細胞ニッチ内に存在すると考えられる全能性幹細胞はinnexin-b陽性、P2X-A陰性であることが示唆された。よって、FACSによりこのような分子的特徴を持った全能性幹細胞を単離し、解離した分化細胞と混ぜて静置することで、ニッチ細胞と全能性幹細胞が接着したコロニー様の細胞塊を得られるのではないかと考えている。ニッチ細胞の同定後、ニッチ細胞をFACSにより単離し、特異的に発現する遺伝子を同定する。同定した遺伝子を機能阻害することで全能性幹細胞が消失すれば、幹細胞ニッチの分子実態を明らかにできたと考えられる。現在、細胞を単離するためのFACSをプラナリアで行うために条件検討中である。 さらに、既にリュウキュウナミウズムシの胚の直径が500μm以上になった胚発生後期に幹細胞ニッチが形成されるのではないかと示唆されている。このため、FACSを用いて幹細胞ニッチの分子実態が明らかになった際には、胚発生後期において幹細胞ニッチが形成されることを分子学的に明らかにできることが期待される。
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