2016 Fiscal Year Annual Research Report
酸素安定同位体比による熱帯樹木の標準年輪曲線の構築
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16J11063
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中井 渉 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 季節熱帯 / 湿潤熱帯 / 年輪年代学 / 安定同位体 / 酸素安定同位体 / 形成層マーキング / 木材解剖学 / 直流高電圧パルスマーキング |
Outline of Annual Research Achievements |
年間を通して気温の変化が乏しい熱帯地域では年輪を持たない樹木が多く,年ごとの肥大成長量の推定といった年輪を用いた解析が困難である.本研究では,目に見える年輪のない熱帯樹木から年輪を検出し成長履歴を解明することを目的に,酸素安定同位体比を用いた標準年輪曲線の構築を試みる.そのために検討すべき項目として(1)年輪のある熱帯樹木を用いた酸素安定同位体比の個体内・個体間・樹種間の同調性(2)年輪のない樹木を用いた,直流高電圧パルスマーキングと酸素安定同位体比を組み合わせた年輪検出手法の適用性(3)樹木内の酸素安定同位体比の決定要因,の3点を挙げ,調査地に季節熱帯の東北タイと湿潤熱帯の半島マレーシアを選び研究を進めた. (1)について,測定にかかる手間を減らすために材試料のα-セルロース抽出の必要性を検討した.その結果,抽出前後で酸素安定同位体比の相関は高く,本研究の目的に関しては抽出処理を省略できると判断できたので,無抽出の条件で試料の測定を進めている. (2)について,両調査地でそれぞれ試料を採取し,形成層マーキングの結果を確認した.その結果,薄壁の木繊維をはじめとするマーキングの結果できた組織・細胞が見られ,そこから一定期間の肥大成長量を推定することができた.両調査地の比較から,直流高電圧パルスへの応答の種類は樹種によって異なること,応答の程度はマーキング時の形成層活動の状態に左右されることなどが示唆された. (3)について,タイでは2015年4月から,マレーシアでは2016年3月から2週間おきに降水を採取しており,本年度は2016年9月まで(マレーシアは10月まで)の試料の酸素安定同位体比を測定した.タイでは乾季から雨期にかけて約10 ‰の減少,マレーシアでは3月から9月にかけて約8 ‰の減少が見られ,木材試料で酸素安定同位体比に周期的な変動が見られることと合致した結果であった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
酸素安定同位体比測定に関して前処理方法を検討した結果,本研究の目的ではセルロース抽出を行う必要がない,と判断できた.これにより,前処理にかかる手間を削減でき,順次試料の測定を進めている. 形成層マーキングを行った試料に関しては,樹種ごとに異なる反応が見られた.また,形成層活動が反応の程度を左右することが示唆された.これらの結果を考慮すると,様々な樹種に対しても条件を調整することで直流高電圧パルスマーキングを用いることができると考えられる. 降水の酸素安定同位体には季節変化が見られた.長期的な傾向を見るために今後も降水の採取・分析を継続する必要はあるが,木材にもこれに対応した変化パターンが記録されていることが期待される
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,年輪のある樹種の酸素安定同位体測定を進め,標準年輪作成に向けて個体内・個体間の相関を検討する.また,形成層マーキングを行った試料に関しても酸素安定同位体比を測定し,地域内での相関を検討する.降水試料の採取も継続し,順次酸素安定同位体比を測定し,木材の結果との対応を見る.
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