2016 Fiscal Year Annual Research Report
新規好中球活性化ペプチド、マイトクリプタイド-1の生理的機能の解明に関する研究
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16J11227
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Research Institution | Nagahama Institute of Bio-Science and Technology |
Principal Investigator |
服部 竜弥 長浜バイオ大学, バイオサイエンス研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | マイトクリプタイド / 好中球 / 自然免疫 / 肝傷害モデルマウス |
Outline of Annual Research Achievements |
マイトクリプタイドはブタの心臓から単離・同定された一群の好中球活性化ペプチドである。そのうち最初に同定されたマイトクリプタイド-1 (MCT-1)は、ミトコンドリアタンパク質であるcytochrome c oxidase subunit VIIIのC末端由来の断片ペプチドであることが明らかとなっており、好中球様に分化したHL-60細胞だけでなく、ヒト末梢血中の好中球においても遊走ならびに活性化を引き起こすことが明らかとなっている。しかし、個体レベルにおけるMCT-1の生理的あるいは病態生理学的な役割は明らかとなっていない。そこで本研究では、マイトクリプタイド-1の生理機能の解明を目的とし、平成28年度は以下の2点について検討を行った。1つ目に、マイトクリプタイド-1 (MCT-1)をマウス腹腔に投与することにより、免疫細胞への作用を検討した。その結果、腹腔内投与したMCT-1は、非常に限定的な濃度範囲において好中球の遊走を引き起こし、それ以上の高濃度においてMCT-1は好中球の遊走を惹起しないことが明らかとなった。2つ目に、薬剤誘導性の肝傷害モデルマウスに対して、MCT-1に特異的な中和モノクローナル抗体であるNM1B1を投与したところ、肝臓の傷害部位への好中球浸潤が阻害されることが示された。これらの結果から、MCT-1は至適濃度において炎症巣へ好中球を動員するとともに、高濃度では過剰な好中球の浸潤を抑制するフィードバックが働いていることが示唆された。またNM1B1による中和実験から、マウス個体においてMCT-1が好中球の遊走を伴う自然免疫に関与することが明らかになった。これらの研究成果は、新たな自然免疫のメカニズム解明に迫る大きな貢献である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究としては、1、マウスに対してマイトクリプタイド-1を投与することによる免疫細胞への影響の解析、2、肝傷害モデルマウスにおいて傷害部位への好中球の浸潤を抗MCT-1中和抗体が阻害するかどうかの検討を計画していた。 まず前者については、種々の濃度のMCT-1をマウス腹腔内に投与したところ、3 nmol/kgという限定的な濃度において、MCT-1は腹腔に好中球を浸潤させるものの、それ以上の濃度では好中球の浸潤を起こさないことが明らかとなった。また、MCT-1の濃度が100 nmol/kg以上の刺激において、肥満細胞の脱顆粒が起きる傾向も観察された。これらの結果から、マウス個体においてもMCT-1は好中球の遊走・浸潤を引き起こすばかりでなく、肥満細胞の脱顆粒を起こすことにより局所炎症に関わることが示唆された。このように、MCT-1のマウス個体における投与実験で様々な作用が観察されたことから、進捗があったと考える。 後者については、アセトアミノフェン(APAP)誘導性の肝傷害モデルマウスにおいて、肝臓傷害部位への好中球の浸潤を、MCT-1に対する特異的な中和抗体であるNM1B1が阻害するかどうか検討した。その結果、マウスの肝傷害エリアに存在する好中球の数は、control IgGあるいはvehicleを静脈投与した場合に比べ、NM1B1を投与したことで有意に減少していた。これらの結果から、APAPによる肝細胞のネクローシス部位に対する好中球の蓄積にMCT-1が関与していることが示唆された。この発見はMCT-1の自然免疫における役割を、生理的ならびに病理的側面からに議論する重要なデータであり、初年度のMCT-1のin vivoにおける研究成果としては非常に大きな進展である。
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Strategy for Future Research Activity |
マイトクリプタイド-1をマウス腹腔に投与することによる免疫細胞への影響を検討したところ、限定的な濃度においてMCT-1は好中球の遊走・浸潤を引き起こすことが示唆された。そこで、この現象が投与したMCT-1によるものかを確認するために、今後はMCT-1特異的な中和抗体を予め投与したマウスに対して、好中球の浸潤を惹起するMCT-1濃度で刺激を行い、中和抗体による阻害作用を検討する。 また、薬剤誘導性の肝傷害モデルマウスにおいて、肝臓傷害部位への好中球の浸潤をMCT-1に対して特異的な中和抗体であるNM1B1が阻害したことから、肝細胞の傷害部位に対する好中球の遊走および蓄積にMCT-1が関与していることが示唆された。そこで次に、MCT-1の分布・存在量と好中球の浸潤との相関関係を検討していく。現在、親タンパク質に結合せずマウスホモログのMCT-1にのみ結合する特異的モノクローナル抗体の獲得も進んでいることから、肝傷害部位においてMCT-1と好中球の分布が重なるかどうかを免疫組織化学により検討していく予定である。 さらに、肝傷害モデルマウスの肝臓および血液サンプルについてMCT-1特異的抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーを行い、その抗体に結合する分子を逆相HPLCにより分離し、分析する。これらのフラクションを質量分析ならびにエドマン分解することで配列同定を行い、組織傷害時における内因性のMCT-1の分子形態の解析を試みる。
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Research Products
(9 results)