2017 Fiscal Year Annual Research Report
水素生産利用に向けた熱水環境微生物による未知一酸化炭素代謝サイクルの解明
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16J11269
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大前 公保 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 一酸化炭素 / 水素生成菌 / 好熱菌 / 温泉 / 微生物群集構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
水素生成型一酸化炭素資化性菌(以下、CO資化性菌と略称)は、一酸化炭素(CO)をエネルギー源および炭素源として利用し、水素を生成しながら増殖する好熱性、嫌気性微生物の総称である。本研究はCO資化性菌を用いた持続的水素生産利用の基盤構築を目指し、(1)新奇CO資化性菌の分離を通じたゲノムライブラリーの構築でCO代謝機構を解明し、(2)微生物群集構造解析およびメタオミックス解析で熱水環境微生物生態系における未知CO代謝サイクルを解明する。 本年度はCO資化性菌の多様性と分布を明らかにするために、2014年から2017年までに九州および伊豆にある泉源より採取した、100の堆積物試料について微生物群集構造解析を行った。その結果、異なる菌叢が形成される多様な泉源(46試料)からCO資化性菌由来と考えられる4属種の配列が検出された。中でもH2生成型CO資化性菌のモデルであるCarboxydothermus属細菌およびCarboxydocella属細菌は21試料と幅広い泉源に認められ、芽胞形成能が幅広い分布に寄与することが示唆された。これらのCO資化性菌の相対存在量は平均0.2%であった。また、ネットワーク解析により他微生物との共在を調べたところ、H2生成型CO資化性菌との相互作用が指摘されていたメタン生成菌や硫酸還元菌は高い相関を示さないことが明らかになった。先行研究では100%CO雰囲気下での集積培養によりCarboxydothermus属細菌およびCarboxydocella属細菌の分離に成功していることから、H2生成型CO資化性菌は多様な熱水環境において、CO存在時に応答し、増殖できる状態で少なからず存在することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は手法を見直して再解析を行い、幅広い陸上熱水環境において多様なCO資化性菌が分布することが明らかになり、今後のにつながる成果を得た。一方、前年度採取した海底コアサンプルにおいてはCO資化性菌の検出には至らず、上記の評価となった。
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Strategy for Future Research Activity |
鹿児島県指宿市の鰻温泉において堆積物試料を採取し、環境DNAおよび環境RNAを抽出する。堆積物中の微生物存在量とCarboxydothermus属およびCarboxydocella属細菌の存在量を明らかにするために、環境DNA中に含まれる16S rRNA遺伝子とCOデヒドロゲナーゼ(CO代謝の鍵酵素)をコードする遺伝子について適切なプライマーを設計し、デジタルPCRによる絶対定量を行う。さらに、環境RNA中に含まれるCOデヒドロゲナーゼ遺伝子の転写産物量をデジタルPCRで定量し、Carboxydothermus属およびCarboxydocella属細菌のCO代謝がどのような環境条件で行われるのかを明らかにする。加えて、環境DNAまたはRNAに対する菌叢解析を実施し、上記のデータと合わせて水素生成型CO資化性菌と他微生物との相互作用をネットワーク解析により明らかにする。 また、今後は海底コアも含めた堆積物中から芽胞を濃縮精製する手法の確立を目指し、休眠している水素生成型CO資化性菌の多様性と存在量を明らかにする。さらにメタゲノム解析により、芽胞として生残する未知CO資化性菌の探索を目指す。 以上の結果を取りまとめ、水素生成型CO資化性菌の動態と「環境の潤滑油」としての機能の解明を目指す。
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