2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16J11335
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
唐島 秀太郎 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 光電子分光 / 水和電子 / 溶液化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度前期は水和電子の励起状態ダイナミクスの研究を行った。本研究課題では溶液内の電子移動反応、とりわけ溶媒和された生体分子の電子ダイナミクスの追跡を目的としているが、水和電子は溶媒中に存在する電子の中で最も単純な描像をとるため、水和電子を研究することは溶液内電子ダイナミクスを追跡する上で非常に役立つ。今実験では過渡種である水和電子をさらにポンプ光(700nm)で励起し、プローブ光(350nm)を用いて基底状態への緩和過程を追跡することで、電子の非断熱緩和過程と溶媒配向による緩和過程について知見を深めた。 その結果、水和電子は励起直後50fs程度で基底状態へと内部転換し、その後水分子の再配向が400fsで追随することが判明した。さらに同時に光電子の放出角度を観測することで、励起状態が基底状態に比べ広い動径分布を持つことを示唆するデータが得られた。また、水和電子は励起直後はレーザーの偏光方向に整列するはずであるが、この整列は数十fsという超高速過程で分散することが判明した。これらの実験結果は溶液内の電子の振る舞いについて解釈していく上で非常に有用である。今実験結果は国内外における学会やジャーナル誌にて発表済みである 平成28年度後期は、生体関連分子としてインドールを採用し、溶液内インドールの時間分解光電子分光実験を開始した。通常溶液内では溶媒分子の作用により気体状態に比べエネルギー変化が激しく、また、励起状態も短寿命を取ることが多い。しかしインドールの励起状態は溶液内でも気体状態時と非常によく似た振る舞いをし、興味深い結果となった。このインドールに関しては現在も実験中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は真空紫外光源の開発、ならびにその光源を利用した溶液内生体分子の電子ダイナミクスの追跡を目的としている。真空紫外光源は既に稼働中であり、いつでも液体光電子分光への応用が可能である。生体関連分子としてインドールを採用したが、前実験である、紫外光を用いた溶液内インドールの時間分解光電子分光実験はあらかた終了した。このため、残る課題は真空紫外光で溶液内インドールを観察するのみだが、残りの期間と照らし合わせれば十分に実現可能であると考えられる。また、日程的にも研究計画どおりに進んでいるため、おおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は励起されたインドール分子の電子状態についてさらに知見を深めるため、真空紫外光への応用を進める。真空紫外光をプローブ光として用いることで基底状態も観測可能になり、励起状態の還りをより正確に観測することが期待される。実験系は概ね整っているので今年度中の測定は十分に可能であると考える。
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