2016 Fiscal Year Annual Research Report
非線形波動粒子相互作用による放射線帯電子フラックスの生成・消失過程の研究
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16J11490
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
久保田 結子 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 非線形波動粒子相互作用 / 放射線帯電子 / サイクロトロン共鳴 / プラズマ密度 / 周波数バンド |
Outline of Annual Research Achievements |
地球を取り巻くように形成されている『放射線帯』、その電子群を散乱させ地球大気圏へ降下させる要因であるEMICトリガード放射とのサイクロトロン共鳴について、京都大学の所有するスーパーコンピューターを使用した大規模並列計算を行い定量的に評価した。2010年から提唱され、観測・シミュレーション検証の両面から立証された『EMIC波の非線形成長理論』に基づいて現実に則した波モデルを作成し、そのモデル化したEMICトリガード放射との相互作用による放射線帯電子のピッチ角散乱及び大気圏消失過程を運動方程式の逐次計算により定量的に求めた。 本年度は理論的に散乱要因に大きく影響を与えることが分かっているパラメーター(背景プラズマ密度・周波数バンド)に着目し、人工衛星の観測結果と照らし合わせて複数の波モデルを構築した。そしてそれぞれの波によって降下した電子の割合を定量的に示した。これにより放射線帯電子の降下するエネルギーの特徴は背景プラズマ密度と波の周波数バンドによって大きく変動することを実証できた。 また大気圏に降下した電子の軌跡を逐一確認したところ、先行研究で判明した放射線帯電子の効率的なピッチ角散乱要因(非線形粒子捕捉)とは全く別の新たな散乱プロセスがあることが判明した。この散乱プロセスは検証したどの波モデルにおいても確認できた。その定量評価と理論的な解析を行ったことにより、非線形粒子捕捉と新たな散乱機構が発生し得る粒子の領域(エネルギーとピッチ角)を判別することができ、この2つの領域を横断して散乱する場合に、急激な電子の大気圏降下現象が発生することを示せた。 以上の結果は、本分野の代表誌であるJGR (Journal of Geophysical Research)にて発表済みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では放射線帯変動の定量評価を数値解析シミュレーションで行うことのみを目標としていたが、数値解析による定量評価から既存の理論では説明できない新たな非線形散乱機構を発見し、その説明も理論的に行うことに成功した。この結果は上記【研究実績の概要】にて述べた通り“検証したどの波モデルにおいても確認”できたことから、より一般的な非線形波動粒子相互作用による散乱プロセスの物理的解明・発展に貢献することが期待できる。 更に本年度の後半にはアメリカ・アイオワ大学に4ヶ月間留学し、人工衛星Van Allen Probesのデータ解析に従事した。放射線帯の生成に寄与するホイッスラーモードコーラス放射の内、Upper-band コーラス放射の生成過程について研究を進めてきた。大振幅なUpper-band コーラス放射は準並行伝播であったことから、『EMIC波の非線形成長理論』と同様の成長過程が大振幅なUpper-band コーラス放射でも成り立っている可能性があると考え、理論式との比較・検討を行った。 人工衛星の波動観測結果と人工衛星の粒子データからパラメーター設定した線形成長及び非線形成長を比較したところ、大振幅なUpper-band コーラス放射は線形成長でノイズから非線形成長の閾値まで成長し、その後非線形成長へと切り替わり急激に成長するために発生している可能性が示せた。 以上のことから、本研究は想定以上の進展が認められ、海外からも多くの期待が寄せられている。
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Strategy for Future Research Activity |
■シミュレーション解析---ホイッスラーモードコーラス放射による数分単位の生成過程(2015年学術論文にて発表済)及び本年度の研究成果であるEMICトリガード放射による数分単位の消失過程の両方を組み込んだシミュレーターを今後、作成する予定である。両波による数時間から数時間スケールでの大局的な変化を追跡するため、すでに求めているホイッスラーモードコーラス放射同様、EMICトリガード放射においてもグリーン関数を作成し、畳み込み積分を行う。粒子分布関数と数値グリーン関数の畳み込み積分を行う頻度や経度範囲を適宜変えることで波の発生頻度や発生範囲を観測結果に合わせ、より現実に近い放射線帯モデルの構築を目指す。 ■データ解析---本年度に人工衛星Van Allen Probesのデータ解析を通して学んだ手法を用いて昨年12月に日本で打ち上げた放射線帯探索衛星『あらせ』の観測データの解析を行う予定である。また『あらせ』を含む多衛星による同時観測(Van Allen Probes, THEMIS, MMS)から放射線帯の大局的な変動を観測からも検証したいと考えている。 ■理論解析---上記2つの手法を用いて導いた非線形波動粒子相互作用を考慮した放射線帯全域の変動結果を準線形拡散モデルと比較検討するため、準線形拡散モデルの第一人者であるニューファウンドランド・メモリアル大学Danny Summers教授を短期訪問する。
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