2016 Fiscal Year Annual Research Report
燃焼起源の未規制化学物質の大気環境動態ならびに発生源解析
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16J11507
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
神谷 優太 京都大学, エネルギー科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 多環芳香族炭化水素 / 塩素化PAH / PM2.5 / 環境分析 / 発生源 / エアロゾル / 越境輸送 |
Outline of Annual Research Achievements |
新たな未規制大気汚染物質の一種である塩素化多環芳香族炭化水素(ClPAH)に関しては,ダイオキシン類や親化合物でもあるPAHと同様の健康影響を与える可能性があることから,その大気中濃度だけでなく発生源や,アジア大陸からの越境汚染について明らかにすることが求められている。H28年度はPM中に含まれる化学物質の分析・解析に注力した。以下に実施状況を示す。
住宅地に位置する京都府京都市と日本海沿岸地域に位置し周囲にClPAHの発生源となりうる施設がない石川県珠洲市において採取されたPM試料の化学分析・解析を実施し、大気中ClPAH濃度の年間変動を明らかにした。また中国遼寧省瀋陽市都市部において採取されたPM試料においても同様の化学分析を行った。代表的なClPAHの一種である6-ClBaPと3-ClFluorのPM2.5中濃度比[6-ClBaP]/[3-ClFluor]の3地点での比較や後方流跡線解析の結果から、冬季の珠洲市大気中ClPAHは中国を含めたアジア大陸から越境輸送されている可能性があることを見出した。また、報告の限られているClPAHの発生源プロファイルの作成に向けて、自動車由来の大気粒子と考えられるトンネル粉塵試料の化学分析を行い、ClPAH濃度組成を明らかにした。
大気中のPM表面におけるClPAHの二次生成の有無を検証するために、黄砂-海塩混合粒子を模した模擬大気粒子を用いて室内反応実験を行った。代表的なPAHの一種であるPyrene(Pyr)を用いた反応実験の結果、カオリナイトやセリサイトはPyrの塩素化体を多く生成することが明らかになった。これらの鉱物は黄砂の構成粒子成分の一種であることから、カオリナイト等の粘土鉱物が黄砂-海塩混合粒子上における塩素化Pyrの二次生成を促進することが推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H28年度は本研究年次計画における①ClPAH発生源プロファイルのライブラリ作成、②日本海沿岸地域における実大気中ClPAHsの観測、③室内反応実験によるClPAH二次生成の検証に取り組んだ。①では、トンネル粉塵試料の化学分析から、自動車由来のClPAHの濃度組成を明らかにした。他の発生源試料に関しても抽出、前処理、化学分析を進めている。②では当初予定していた日本沿岸地域(石川県)と中国都市部の2地点に加えて京都市(住宅地)において、2014年12月から2016年1月(中国においては2015年冬季と夏季のみ)の間に捕集されたPM試料中に含まれるClPAH濃度測定を実施し、一般的な濃度の季節変動パターンを明らかにした。また、PM2.5中の[6-ClBaP]/[3-ClFluor]濃度比の比較と後方流跡線解析の結果、冬季の日本海沿岸域の大気中ClPAHはアジア大陸からの越境輸送を示唆する重要な知見が得られた。③の模擬大気粒子を用いた室内反応実験の結果から、黄砂-海塩混合粒子上で塩素化Pyrの二次生成が鉱物の種類によっては促進される興味深い結果が得られた。室内反応実験により、大気PM上でClPAHが二次生成される可能性について明らかにすることができたが、日本海沿岸地域で実施された実大気観測の結果からClPAH二次生成の現象を明らかにするまでは現在のところ至っておらず、さらに解析を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は発生源試料の化学分析・解析を進め、現在までに報告が限られている各種発生源に由来するClPAHプロファイルを明らかにし、発生源指標を見出すことを目標とする。また、室内実験で検証することができたClPAH二次生成について、日本海沿岸地域で実施された実大気試料中の塩素源と考えられる塩素イオン成分や金属成分の分析を行い、実大気中ClPAH二次生成の有無について検証する。最終的には各分析により得られた化学成分濃度データを使用し、多変量因子分析ツールの一つであるPMF(Positive Matrix Factorization)モデルを用いて大気中ClPAH濃度に対する各種発生源の寄与率を定量的に明らかにする。PMFモデルによって抽出された因子解釈の際には、発生源試料分析で得られたClPAHプロファイルを使用して解析を進める。
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Research Products
(4 results)