2017 Fiscal Year Annual Research Report
アリールスルフィドを基質とする新規遷移金属触媒反応の開発
Project/Area Number |
16J11522
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大塚 慎也 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | イソシアニド / チオエステル / パラジウム / アリールスルフィド / 有機硫黄化合物 |
Outline of Annual Research Achievements |
私は平成28年度の研究において,一酸化炭素の合成等価体であるイソシアニドを用いることでヘテロアリールスルフィドの炭素-硫黄結合に対する挿入反応が進行することを見いだしていた。本反応はベンゾチアゾール,チアゾール,ベンゾオキサゾール,トリフルオロメチル基を有するナフトフラン誘導体など様々なヘテロアリールスルフィドに対して適用可能であり,反応後の酸処理により対応するチオエステルが得られることを見いだしていた。 私は平成29年度の研究において,このイソシアニド挿入反応がより広範なヘテロアリールスルフィドに対して適用可能であり,ベンゾフラン,ベンゾチオフェン骨格を有するスルフィドをそれぞれ対応するチオエステルへと変換できた。また硫黄置換基を有するヘテロアリールスルフィドは簡便な合成法が既知であること,またチオエステルは有用なカルボニル化合物合成中間体であることに着目し,硫黄ベースの戦略によるジアリールケトン合成にも展開した。 なお,本反応には添加剤として酢酸亜鉛およびリン酸カリウムが必須であり,これらいずれかが存在しない場合反応はほとんど進行しないことが平成28年度の研究においてわかっていたが,その働きは明らかではなかった。各種実験により添加剤の効果の解明に努めた。質量分析による検討の結果,酢酸亜鉛とリン酸カリウムにより生じる新たな化学種が本イソシアニド挿入の鍵であることがわかった。またこの新たな化学種は酢酸亜鉛とリン酸カリウム以外の本イソシアニド挿入に活性なカリウム塩を混合した際にも生成していることがわかった。この化学種はパラジウム触媒に対しヘテロアリールスルフィドが酸化的付加することにより生じるパラジウム中間体からチオラートを解離させ,空配座を有するカチオン性パラジウム種を平衡により生じさせることにより反応を進行させているのだと推定した。これらの結果を国際学術論文誌に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では変換困難なアリールスルフィドをあたかもハロゲン化アリールであるかのように自在に変換できる手法を開発し,有機硫黄化合物特有の化学と組み合わせることで新たな合成戦略を提供をするべく研究を行っていた。一方,平成28年度から平成29年度にかけて発見した反応はハロゲン化アリールでは達成できないアリールスルフィドならではの変換反応である。すなわち,これまでの「ハロゲン化アリールを模倣した」とも言える研究ではなく「アリールスルフィドだからこそできる」研究を行うことができた。その点で,当初の計画以上の結果を出せたと考えている。 また,本反応における添加剤の効果について検討を行った。その結果,酢酸亜鉛とカリウム塩基から生じる化学種がパラジウム触媒から硫黄アニオンを一時的に解離させる効果を有していると推定できる結果を得ることができた。パラジウム触媒を用いた有機硫黄化合物の変換反応においていかにパラジウム上から硫黄化学種を解離させるかという点は1つの大きな課題であり,その解決策となりうる新たな発見をすることができた点も当初の計画以上の結果を出せたと考える理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
酢酸亜鉛とカリウム塩基からなる新たな化学種について,質量分析法を用いた分析によりその存在は示唆されたが,詳細な構造は現在のところ不明である。しかし,種々のカリウム塩基を用いた場合に同様の化学種が生じていることから,生じている化学種は亜鉛カチオン,カリウムカチオン,酢酸アニオンから成っていると推定される。さらなる分析を試みその詳細な構造の特定に努めたい。 また並行して,この化学種が遷移金属上から硫黄化学種を解離させられるという知見を発展させたあらたな反応開発も行いたい。具体的には,アルケンやアルキンに対するアリールスルフィドの挿入反応を検討する。これら挿入反応は平成28年度から平成29年度にかけて開発したイソシアニド挿入反応と類似の反応機構で進行すると考えられるため,同様の添加剤を用いることで効率よく反応を進行させられると期待している。アルキンに対するアリールスルフィドの付加反応は近年他の研究者により報告されているが,用いることのできるアリールスルフィドはチアゾリルスルフィドに限定されている。触媒や添加剤について詳細に検討を行うことで一般性の高い反応条件を探索したい。
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Research Products
(7 results)