2017 Fiscal Year Annual Research Report
超強結合状態における共振器ポラリトンの超高速非線形光学応答の解明
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16J11890
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
鈴木 信 香川大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 超強結合 / 微小共振器 / 非線形分光 / 共振器ポラリトン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成 28 年度に先行文献 [PRL106, 196405 (2011)] を参考にフォトクロミックスピロピラン色素を挿入した微小共振器を作製し、超強結合と思われる現象を観測した。しかし、微小共振器を構成する 2 枚の金属ミラーの反射率や並行度が適切ではなかったため安定して超強結合状態を観測することが困難であった。そこで試料作製の方法を見直し、再現性良く超強結合状態を実現できる試料を作製しようと試みた。具体的には (i) 金属膜の成膜方法をスパッタ法から真空蒸着法に変更し膜厚を容易にハンドリングできるようにした。 (ii) 微小共振器の作製方法を 2 枚の金属ミラーを治具で挟み込み、治具に付加する応力を調整する方法から、金属層・共振層・金属層の 3 層を順番に製膜したモノリシックな構造を作製する方法に変更し、特別な作業なしで金属ミラー間に一定の並行度が担保されるようにした。結果としてスピロピランを用いたサンプルにおいて 560 meV という非常に大きな真空 Rabi 分裂エネルギーを観測し、超強結合状態を再現性良く観測できるようになった。さらにRhodamine B, Nile Blue など様々な色素を含む金属微小共振器を作製し強結合を観測するとともに、以前受入研究者の研究室で合成されたLEMKE 色素を金属微小共振器に挿入することで 1 eV を超える真空 Rabi 分裂エネルギーを有する超強結合が実現できることを見出した。LEMKE 色素を用いて超強結合状態が観測されたという報告はこれまでになく、香川大学で保有している超短パルスレーザーで励起可能な試料であるため、今後はLEMKE 色素含む金属微小共振器を使って研究を進める計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度実施を計画していたのは 1.超強結合状態を観測可能なサンプルの作製方法の確立 2.強結合状態微小共振器の THz pump optical probe 分光 3.超強結合微小共振器に対する非線形分光のための white light pump probe 分光系の構築 の 3 つである。 1に関しては上で述べたように達成することができた。 2に関して、真空 Rabi 分裂エネルギーに共鳴する電磁波により強結合状態を励起した場合の影響を調べるために pseudoisocyanine J-会合体を含む強結合微小共振器の THz pumo optical probe 分光を行った。しかしこの実験で明確な信号の変化を観測することはできなかった。これは微小共振器を構成する石英ガラス基板により pump 光であるテラヘルツ波が減衰してしまったことが大きな原因である。また、現在の実験系では十分に強いテラヘルツ波を出すことができていない可能性もある。このため強結合状態における実験は断念した。ただし、超強結合状態において真空 Rabi 分裂エネルギーに共鳴した光は近赤外光となり、この領域では基板による吸収はほとんどない。さらに光源として光パラメトリック増幅器を用いることができる。従って超強結合微小共振器においては上で挙げた問題点は無視できる可能性がある。 3に関して、フッ化カルシウムガラスを白色光発生媒質として white light pump probe 分光計を構築したが、600 nm よりも短波長では発生効率が悪くスペクトル形状も不安定で、現在保有している設備では十分に信頼できるデータを取得することが困難であるという結論に達した。特別研究員はこのような実験系を過去に構築した経験があり、比較的短期間で構築可能である。また励起光を高ピークパワーとした場合の非線形発光測定も検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、これまでに測定した線形領域における超強結合状態微小共振器の分散関係に関して、理論的な解析を行い論文投稿を目指す。このために超強結合状態に関する先行文献を精査し、適切なモデルを構築する。 並行して非線形分光のための 2 色 pump probe 分光系の構築を行う。可視光あるいは近赤外光を用いて微小共振器の共振モードに対して共鳴・非共鳴の多様な励起条件で過渡透過分光を行う。これにより得た結果を、これまでに得た強結合における超高速非線形応答、及びこれまでに報告されている理論研究と比較・検討する。これにより超強結合に特有の非線形応答の有無を明らかにするとともに、そのデバイス応用への可能性を模索する。
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