2017 Fiscal Year Annual Research Report
キラルメタボロミクスによる疾病バイオマーカーの探索
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16J11918
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
高山 卓大 静岡県立大学, 薬食生命科学総合学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | キラルメタボロミクス / 安定同位体標識誘導体化 / LC-MS/MS / アルツハイマー病 / 脳脊髄液 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々が先に開発した三連四重極型質量分析に従うキラルメタボロミクスは,特に低強度なピーク領域の変動を正確にとらえる事,得られるm/zの確度が低く,誘導体のm/zから代謝物本体の構造を推定する事が困難であった.本年度の研究ではこれらの点を解決すべく,開発した安定同位体導入試薬と,LC-Qtof-MSのデータ依存型MS/MS分析の適用を考え検討を行った.本法では各試料を通常の誘導体化試薬で,プール試料を標識体で誘導体化し混合したものを測定する.これにより,安定同位体標識の内標準物質が全測定存対象について存在するかのような測定が実現され,マトリックス効果等の測定誤差を低減した高精度な比較解析が可能となる.同時にMS/MSスペクトルが取得可能なため,その情報から構造同定を進めることが出来,マーカー探索の効率化につながる. 本法の有用性を検証する目的で,キラル化合物標準品のD/L比を,0/100-2/100と微量に変化させた溶液のヒトプール血清添加試料を分析した.主成分分析の結果,変動は極めて微量にも関わらず,その差異を明確に認識した.さらに,多種の解析対象ピークの中から,添加した微量D-エナンチオマーのみを変動化合物として抽出可能であった.従って本法は,キラルな代謝物の網羅的解析に高い有用性を示すことが明らかとなった. 続いて,キラル化合物に関する知見がほとんどないアルツハイマー病患者の脳脊髄液解析に本法を応用した.健常者の試料と比べ大きな差はみられなかったが,30種程度のマーカー候補を発見でき,約半数がキラルな化合物の候補であることが示唆された.このことも本法の有用性を補強した. 結果が示唆する通り,生体内には多数のキラルな代謝マーカー候補が存在するため,多領域において分析は必須となると考えられる.その意味で今回開発した方法が,マーカー探索研究を推進する強力なツールとなる事が期待できる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度実施計画として制定した安定同位体導入誘導体化を併用するキラルメタボロミクスの開発と検証を完了することが出来た.同時に,本法を用いてアルツハイマー病患者試料のバイオマーカー探索を行うことで,数十種の候補代謝物をピックアップすることに成功した.さらに,この内キラル化合物候補が何種あるかも明らかとすることが出来た.これらの結果は本法のキラルメタボロミクスにおける高い有用性を示唆するものであり,今後のキラル代謝物研究を推進する技術であると言える.またチオール検出用試薬についても合成を完了させ検討段階に入っている.以上から当初の計画通りおおむね順調に進展していると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
30年度の研究では,アルツハイマー病患者脳脊髄液解析により得られた情報に対し,より詳細な解析を進めていくことを予定している.現状,強度変動が示唆されている代謝物の情報として,m/z,MS/MSスペクトルおよび保持時間が得られている.これらを元にその由来構造を突き止め,正体が何の代謝物であるかを同定していく.構造決定後,標準品を購入し,LC-TQ-MS/MSによる正確な定量分析法を逐次開発していき,脳脊髄液内の濃度を算定する.可能であれば,変動の原因をトランスオミクス的な考え方で考察していき,血清や剖検脳のデータ等と抱き合わせ,病態学に有益な情報を提示していきたいと考えている.アミンやカルボン酸の分析は終了しているが,その他の対象(チオール,水酸基)についても可能な限り同様な解析を行い,考察も進めていく.
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