2016 Fiscal Year Annual Research Report
草原棲絶滅危惧鳥類を指標とした水田と耕作放棄地の生態的価値の評価
Project/Area Number |
16J11953
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
高橋 雅雄 弘前大学, 農学生命科学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 生態的価値 / 水田 / 耕作放棄地 / 絶滅危惧種 / 生物多様性 / 保全 / 共存 / 鳥類 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、絶滅に瀕した湿性草原棲鳥種であるオオセッカ(絶滅危惧ⅠB類)とコジュリン(絶滅危惧Ⅱ類)を指標として、水田と耕作放棄地の生態的価値を定量的に評価し、農耕地環境における農業活動(特に水田稲作)と生物多様性の保全との両立を新たな視点から探るものである。特に、その増加が近年の社会問題の1つとなっている耕作放棄地が、単に経済的価値が小さい環境ではなく、生物多様性の保全において大きな価値があることを示すことが、本研究の目的である。農耕地としての再利用や土地利用の転換(メガソーラー発電施設建設等)で耕作放棄地が急激に消失した場合、農耕地環境に生息するこれらの絶滅危惧鳥種がどのような影響を受けるかについて予測することが、本研究の最終的な目標である。 研究初年度である平成28年度は、水田と耕作放棄地が混在した農耕地環境(青森県八戸市市川地区)に生息するオオセッカを対象に、彼らの繁殖期(5月~8月)において、営巣環境および採餌環境としての水田と耕作放棄地それぞれの利用状況について野外調査を実施した。その結果、①オオセッカは耕作放棄地を営巣環境および採餌環境として利用したが、水田はほとんど利用しなかったこと、②同所的に生息する他の鳥類(ヒバリ・オオヨシキリ・コヨシキリ・ホオアカ・コジュリン等)は水田を採餌場所として利用したことが明らかとなった。即ち、オオセッカにとって耕作放棄地は大きな生態的価値があり、一方で水田は生態的価値がほとんどないことが示唆された。 平成29年度と平成30年度は、コジュリンを調査対象とし、オオセッカと同様に、彼らの繁殖期(5月~8月)において、営巣環境および採餌環境としての水田と耕作放棄地それぞれの利用状況について野外調査を実施する。野外調査は秋田県大潟村の農耕地を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、環境省により絶滅危惧ⅠB類に指定されているオオセッカを対象に、①彼らの繁殖活動において、水田と耕作放棄地はどのように利用され、②その利用状況の個体差が、それぞれの繁殖活動や繁殖成功にどのように影響するのかを明らかにすることを目的として野外調査を行った。 調査地は、青森県八戸市市川地区にある水田および耕作放棄地を含む農耕地とした。彼らの繁殖期(5月~8月)に、調査地全域の個体数センサスを週1回程度行い、成鳥雄の個体数と分布を明らかにした。各成鳥雄は捕獲・標識して個体識別し、採血を行って分子生物学的解析用のDNA試料を得た。週2回程度の集中観察を行い、行動と位置を随時記録して、繁殖テリトリーの配置と面積および採餌範囲を推定し、巣の発見に努めた。巣は週3回程度観察して内容(卵数・巣内雛数等)を記録し、巣立ち数・巣立ち日・繁殖失敗要因の特定に努めた。また、巣内雛は巣内育雛期間中に最多3回の捕獲を行い、体サイズを毎回測定して、雛毎の成長率を算出した。育雛期中期には標識と採血も行った。さらに、各巣について、育雛期前期・中期・後期に各1回のビデオ撮影を可能な限り行い、親鳥の給餌内容を特定した。窒素炭素安定同位体比分析の試料として、巣内雛の羽毛と、餌資源となる無脊椎小動物と、それらの餌資源となる植物体の採取も行った。 成鳥雄22個体の計27巣について繁殖活動に関する詳細なデータが得られた。その結果、①オオセッカは耕作放棄地を営巣環境および採餌環境として利用したが、水田はほとんど利用しなかったこと、②同所的に生息する他の鳥類(ヒバリ・オオヨシキリ・コヨシキリ・ホオアカ・コジュリン等)は水田を採餌場所として利用したことが明らかとなった。即ち、オオセッカにとって耕作放棄地は大きな生態的価値があり、一方で水田は生態的価値がほとんどないことが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度と平成30年度は、当初の計画通りに、絶滅危惧Ⅱ類のコジュリンを指標種として、水田と耕作放棄地の生態的価値を定量的に評価する。コジュリンの繁殖生態に関する野外調査は、秋田県大潟村の農耕地で春夏期(5月~8月)に実施する。平成29年度は、50巣程度を目標に観察し、繁殖生態に関する基礎情報(雌雄の行動・テリトリーの環境特性等)を収集する。その上で、①営巣環境の利用割合(特に稲作水田内に作られる巣の割合)を明らかにし、②営巣環境間で繁殖成功率を比較し、コジュリンにおける水田と耕作放棄地の営巣環境としての価値を評価することを最優先の目的とする。それを踏まえて、平成30年度は、①営巣環境が異なる巣間で親鳥の採餌環境は異なるのか、②営巣環境が異なる巣間で親鳥の巣内雛への給餌内容は異なるのか、についてデータを収集し、コジュリンにおける水田と耕作放棄地の採餌環境としての価値を評価することを最優先の目的とする。 また、平成28年度のオオセッカおよび平成29年度と平成30年度のコジュリンの野外データについて、分子生物学的および化学的分析と統計解析を行う。巣内雛の血液サンプルについては、平成29年度秋と平成30年度秋にDNA解析による性判定を行い、巣内雛の巣毎の性比を明らかにする。巣内雛の羽毛サンプルと周辺環境の餌候補生物サンプルについては、平成29年度秋冬と平成30年度秋冬に安定同位体比分析を行い、採餌環境としての水田と耕作放棄地の利用割合に関する結果を補強する。これらの結果を基に統計学的な解析を行い、オオセッカとコジュリンのそれぞれについて、水田と耕作放棄地の生態的価値を明らかにする。 なお、平成29年度秋にカナダのバンクーバー市で開催される国際鳥類学会議(IOC)にて、本研究の結果を発表する予定である。
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