2016 Fiscal Year Annual Research Report
質量分析が可視化する植物ステロール代謝のダイナミクス
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16J40073
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
一瀬(森川) 智美 九州大学, 先端融合医療レドックスナビ研究拠点, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 質量分析イメージング / 植物ステロール / 代謝動態 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物は多岐に分岐した経路で種々のステロールを生合成し、関連代謝物の存在量比を変化させて発育段階を制御する。ステロール生合成の関連遺伝子が形態形成と連動した応答性を示すことが転写レベルでは明らかになっているが、その合成経路が複雑に分岐し、様々な中間体を経て多様な産物が合成されることから、複数種のステロール群の動態を直接的・網羅的に追跡することは未だ困難である。本研究では組織内の代謝動態を非標識で捉えるマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析イメージング (MALDI-MSI) 技術を用い、植物組織の微小空間でダイナミックに変動するステロール動態を代謝物レベルで可視化し、質量分析を基軸とした新規な分析手法を開発するとともに、関連代謝物の生理機能について理解することを目的としている。 上記の目的の達成のために、植物組織に適したMALDI-MSI試料調製法の最適化を行った。試料として用いたシロイヌナズナ葉組織の表皮細胞層を除去することにより、組織内部に蓄積すると考えられる複数の代謝物由来ピークを検出すると同時に、高解像度かつ高感度な代謝物分布画像を得ることに成功した。続いてマトリックス塗布法として、汎用法である真空蒸着法に改良を加えた方法を用いることにより内在性代謝物の高感度かつ再現性の高いイメージング結果を得るに至った。本手法を用い、ステロール群および生合成前駆物質を同時に検出可能なマトリックスの選定、ならびにマトリックス塗布時に組織上においてステロール群を誘導体化する方法により、その組織内動態の同時可視化を試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度計画していた植物組織を用いたMALDI-MSI試料調製法の最適化を予定通りに実施することができた。その手法として、葉組織の表皮細胞層を剥離し海綿状組織を露出した試料を測定に用いることにより、葉の内部組織に蓄積する内在性代謝物の高感度かつ高解像度なイメージング結果を得る実験条件が整ったと判断できる。またマトリックス塗布法に改良を加えることで、再現性の高いイメージング結果の取得が可能となった。前述の方法を用いて、異なる二種の環境条件下において生育させた植物体の葉を採取し、イメージング解析を行ったところ、ある特定の代謝物の蓄積様式に顕著な差が認められた。これら一連の実験手法をステロール群ならびに生合成中間体に適用できると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
ステロール群ならびに生合成前駆物質の分布様式を同時に可視化するべく、混合マトリックスの作製およびステロールの構造類似体であるステロイドの組織上誘導体化法を応用し、イメージング解析を進める。またステロール生合成変異系統における全ステロールの代謝動態を追跡するとともに、代謝物分析、遺伝子発現解析を並行して行うことで、ステロール代謝動態と表現型との相関を検討する。
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