2019 Fiscal Year Annual Research Report
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16J40101
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
富松 江梨佳 九州大学, 芸術工学研究院, 特別研究員(RPD) (20584668)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2021-03-31
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Keywords | 時間知覚 / 充実時間錯覚 / 時間伸長錯覚 / 運動知覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
二つの短音によって区切られた時間間隔の知覚的な長さと一つの持続音の知覚的な長さを比較すると、前者よりも後者の方が長く知覚される。これを充実時間錯覚と呼ぶ。運動する物体の提示時間は静止した物体の提示時間よりも長く知覚される。これを時間伸長錯覚と呼ぶ。本研究では、この充実時間錯覚と時間伸長錯覚の関連性を調べた。両者を視覚において量的に比較すると同時に、充実時間錯覚については、聴覚において、視覚実験に用いた同様の方法を同一の時間間隔を用いて確かに錯覚が起きるかどうかについて確認した。短音および持続音の代わりに、ランダムドットのフラッシュ(短時間提示)と静止ランダムドットを、運動する物体および静止した物体の代わりに、動的ランダムドットと静止ランダムドットを用い、知覚的時間長の現れ方を調べた。聴覚実験の結果、視覚実験に用いたものと同じ時間間隔および手法を用いた場合、確かに充実時間錯覚が起きることが確かめられた。視覚実験の結果、充実時間錯覚および時間伸長錯覚が起きることが確かめられた。このとき、充実時間錯覚の錯覚量は一定であったが、時間伸長錯覚の錯覚量は刺激の時間間隔が長くなるにつれて増大する可能性が示された。本年度は、研究再開準備支援期間であったが、次年度からの本格的な研究再開に向けて、新たな聴覚実験に用いる刺激の作成、結果の分析、論文執筆を主に行った。特に論文執筆に関しては、上記の一連の実験によって得られた結果、および、これまで得られた実験結果をまとめ、視覚と聴覚における時間長の錯覚に関する論文を投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究結果から、聴覚と視覚において個別に検討されてきた時間長の錯覚現象を定量的に比較できることが示された。また、視覚と聴覚との双方における実験結果を比較し、感覚の違いを超えた視点から時間知覚の仕組みについて考察できることが示された。さらに、基本周波数は一定であるが変化が感じられる聴覚刺激を新たに提案し作成した。これまでに得られた知見をもとにして作成した運動知覚を生じさせる刺激を導入することによって、運動知覚と時間知覚との関係性について定量的に調べた貴重なデータが心理物理的実験によって既に得られている。本年度は、研究再開準備支援期間であったが、次年度からの本格的な研究再開に向けて、新たな実験刺激の作成、結果の分析、上記の結果をまとめた論文の執筆を行い、着実に研究を進めることができた。執筆中の論文において、知覚システムが行う情報処理のどの段階に内的時計が位置付けられるかを、定量的なデータに基づいて論ずることができる可能性を示した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、処理階層の異なる時間知覚を想定し、実験心理学的手法を用いて主観的時間長を調べる。これまで、聴覚や視覚など、単一感覚内で時間間隔を成す単純な刺激に生じる主観的時間長について実験を行い、単純な時間知覚の生じ方について検討してきた。また、運動知覚など、他の知覚が時間知覚と結びつく場合のような複合的な時間知覚について、その主観的時間長の現れ方を調べる実験を行った。今後は、これまで得られた時間知覚の知見をもとに、想定した全ての段階において生じる時間知覚の仕組みを調べ、時間がどのように知覚されているのかを考察する。主観的時間長は、再生法や調整法、マグニチュード推定法など、心理物理学的手法を用いて測定する。物理的に同じ時間間隔であっても、運動する物体の呈示時間は、静止した物体の呈示時間よりも長く知覚される(時間伸長錯覚)。この時間伸長錯覚に関わる変化要因に着目するとともに、聴覚において、中心周波数は一定であるが変化が感じられるランダム周波数音を用いて主観的な時間長を測定する予定である。このような時間長の錯覚の有無や生じ方を手掛かりとして、運動知覚・認知や変化の知覚と、時間知覚とがどのように結びついているかを考察する。さらに、一連の実験の結果から、時間知覚に関わる感覚間の情報がどのように統合されているのか、また、時間知覚処理と情報統合がどのように関わり合いながらなされているかを考察する。
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