2016 Fiscal Year Annual Research Report
神話的空間としての「イーハトヴ」-宮沢賢治における「神話」概念に関する比較研究
Project/Area Number |
16J40214
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
SASAKI BOGNA AGNIESZKA 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 宮沢賢治 / 比較文学 / 神話 / 文学における空間 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究としては、まず本研究のキーワードとなる「神話」の概念を視野に入れながら、G.ガルシア=マルケスによる『百年の孤独』を賢治童話と比較することを試みた。このそれぞれの作家が自らの故郷をモデルにした、作品の舞台となった「イーハトヴ」と「マコンド」の、「空間」としてのあり方を比較しながら、前近代の要素を含む宮沢賢治とG.ガルシア=マルケスの語り方や、神話的要素が西洋への抵抗措置として使われた技法を考えたうえで、故郷の捉え方、また近代化のプロセスの捉え方に見られる共通点および相違点について考察した。それまでの研究成果として、7月にウィーンで行われた国際比較文学学会で発表した。 また、宮沢賢治の故郷である花巻で、8月に開催された国際研究大会のシンポジウムに、パネリストとして参加したのをきっかけに、北アメリカ南部をモデルに「ヨクナパトーファ郡」と名づけた空間を考えたW.フォークナーと、賢治童話と同じく大自然の中での動物と人間の関係を題材にした作品を書いたJ.O.カーウッドという、二人のアメリカの作家を取り上げて、宮沢賢治の童話「なめとこ山の熊」との比較分析を試みた。特に、W.フォークナーの場合は空間の神話的要素という観点からも類似性が認められるので、神話と深い関わりのある「狩猟」のモチーフやフォークナーの作品までをも視野に入れ、現在はG.ガルシア=マルケスのものと同時に、比較対象として研究を進めている。シンポジウムの参加に加え、宮沢賢治学会の拠点となるイーハトーブセンターの図書室で資料収集も行った。 さらに、研究に新たな展開を付け加えることを目指し、「空間」と「場所」の概念に関する最近の研究にも目を向けた。諸要素を組み合わせた結果として生じる「場所」のダイナミズムに注目し、神話的性格に加え、その他の「場所」の捉え方に視野を広げた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、宮沢賢治の童話を比較文学的観点から考察できたこと、またその成果について、国際比較文学学会及び国際研究大会のシンポジウムという、国内外の二つの場で予定通り発表することができたこと、さらに文献や資料の収集が順調に進んだことは、今後の研究の進展における重要な基礎作業となり、研究を確実に前進させることができた。 本来計画していた「神話」概念の体系的な把握はやや遅れているものの、一方ではより広い角度からの、文学における「場所」の捉え方に関する理論の見識を深めることができ、また新しい作者を課題の対象として含めることができたことは、次の展開を促す有用な成果として認められ、研究は順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は今年度予定していた「神話」概念の体系的な把握に努める一方、今年度に引き続き、宮沢賢治の童話を、G. ガルシア=マルケスの作品をはじめとして、他文化圏の文学と、「神話的空間」の観点から比較する作業を進め、その可能性を探る。そして進行中の研究の発表、とりわけ論文掲載を進めることを目指す。 また、文学における「空間」に関する理論をさらに深め、本来計画していたよりも広い観点から研究をまとめる可能性も視野に入れながら考察を進めたい。
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