2018 Fiscal Year Research-status Report
組合せ位相幾何に基づく高レベル仕様からの並列・分散プログラムの生成
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16K00016
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西村 進 京都大学, 理学研究科, 准教授 (10283681)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 並行・分散プログラム / 位相幾何的手法 / プログラム導出 |
Outline of Annual Research Achievements |
位相幾何的手法を用いた共有メモリ並列分散計算モデルの理論では、n+1プロセスからなるシステムの状態をn次元の図形(単体的複体)とみなし、その幾何的な特徴によって計算能力を同定することができる。この単体的複体に「穴」を開ける操作に対応する実行が可能であり、その穴が高次元であればあるほど、そのシステムは高い計算能力を持つことが知られている。昨年度までの研究対象であった、即時スナップショットモデルは「穴」を開けることができないため、その計算能力は非常に限られている。 当該年度の研究では、「穴」を開けることが可能なより強力な計算モデルのひとつであるk-並列実行(高々k個のプロセスまでが並行してプロトコルを実行可能)モデルを用いて並列分散計算の仕様を記述するための基盤として、このモデルが導出する単体的複体の組み合わせ幾何的構造とその幾何的特徴について研究を行った。 即時スナップショットプロトコルについて、これをk-並列実行したときの出力結果に対応する単体的複体の幾何的特徴をあらわすEuler標数の一般形を特定した。(河合草一氏との共同研究)この結果は、数え上げ組み合せ論で用いられる母関数の手法を適用し、即時スナップショットの単体的複体に含まれる各次元の単体の個数を正確に数え上げることによって得ており、分散計算と組合せ論というふたつの分野の意外な関連を示唆しており興味深い。 一方、即時スナップショットの二回繰り返し実行をk-並列実行した場合の単体的複体は、並列度kを下げる毎により高次元の穴が広がっていくよい構造を持っていることがGafniらによって示唆されている。この単体的複体のEuler標数の特定も試みたが、残念ながらこれにうまく対応する母関数が構成できなかったためよい結果は得られなかった。この点については、数え上げ組み合せ論での母関数の手法のさらなる深化が待たれるところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度の研究ではk-並列即時スナップショットの位相幾何的構造、特に高次元の穴の空き方に関する幾何的指標については一定程度の理解を進めることができ、これによって年度目標に掲げていた位相幾何的構造と分散システムの橋渡しを一定程度強化することができた。しかし、即時スナップショットの二回繰り返しk-並列実行に関しては、十分に満足できる成果にまでは到達できなかった。これは、そのような並列実行から導出される組み合せ構造が予想していたよりずっと複雑度の高いものと判明したためである。このような組み合わせ構造は本質的に困難な数学的構造を内在していると考えられるが、この方面での研究は組合せ論の分野でも手付かずのようである。 ただ、このような組み合せ構造の調査の過程でいくつかの重要な知見を得ることができた。その中でもとくに重要なのは、即時スナップショットの二回繰り返し実行によって得られる単体的複体に対応する組み合せ構造の表現として、2つの直行する順序付き集合分割の行列表現の着想を得たということである。このことは次年度の研究を推進する大きな足掛かりとなる。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の行列表現を利用することによって、即時スナップショットの二回繰り返しのk-並列実行の組み合わせ的特徴づけを統一的かつ見通しよく与えることが可能になると考えられる。本研究課題最終年度では、この行列表現を中核として主に以下の2点の課題に注力して研究を推進していく方針である。
【k-並列分散計算の高レベル仕様記述】 即時スナップショットの二回繰り返しのk-並列実行モデルは、並列度kを変化させることで柔軟に単体的複体の高次元の穴の空き方を調整することができるため、様々な計算能力に対応するシステムの統一的な仕様記述に対応できると考えられるが、その扱いは単体的複体の組み合せ幾何的構造の複雑さゆえその扱いは明らかではない。上記の行列表現から、組み合せ幾何的構造の厳密かつ簡明な表現方法を開発する。この表現方法を基盤として、分散並行計算を、単体的複体の変形に関する仕様として記述する方法を与える。
【単体的複体変形の仕様記述からのプログラム生成手法】 上記の仕様記述は、単体的複体に関する変形に対するものであるから、これを実際に実行可能な形とするには、仕様に対応したプログラムを生成しなければならない。このような仕様からプログラムの生成のための方法論について考察する。具体的には、各単体に関する操作を、即時スナップショットの二回繰り返しで得られる計算結果と対応させなければならない。これは上記の組み合わせ幾何的構造の表現を用いて統一的に行われることになる。また、k-並列性については、プロセス故障の起こらない通常の並列計算モデルを仮定すれば、並列度を制限することによって容易に実現可能である。これらのプログラム生成のための手法は、前年度に研究を行った即時スナップショットの実行アルゴリズムの最適化手法と組み合わせることも考えられる。
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Causes of Carryover |
昨年度の研究対象として設定した課題が予想外に数学的困難な難問であったためその内容をまとめあげて会議等に発表するまでに至らなかったため。 本年度は、課題項目を変更し、昨年度の研究で得られた知見を活かして研究を遂行し、その成果を国際会議等での発表のため有効活用したい。また、仕様記述からのプログラムの生成の実証実験のため、ある程度の並列性を実現できるマルチコアCPU搭載PCを導入する予定である。
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