2019 Fiscal Year Research-status Report
ネットワーク統計学の開拓と災害・防災ネットワーク分析への展開
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16K00043
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
寒河江 雅彦 金沢大学, 経済学経営学系, 教授 (20215669)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤生 慎 金沢大学, 地球社会基盤学系, 准教授 (90708124)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ノンパラメトリック統計 / ネットワークデータ / 到達圏解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
ネットワーク上で様々な確率現象が観測され、分析の需要も非常に増えている。研究期間において、例えば、ネットワーク上で起こる災害・事故(交通渋滞・事故、河川氾濫、通信網上の呼損、トラフィック障害等)を分析するための統計理論と防災・災害時の公的健康保険データベースを用いて、災害エリア内の住民の病歴、要支援の有無、介護度、高齢世帯の分布等を解析し、災害脆弱性の分析と災害弱者の避難時の支援計画策定のための基礎分析を行った。次の4つの研究を本研究期間内で実施した。 ①ネットワークデータの統計分析で用いる方向統計学のノンパラメトリック統計モデルとその推定法を提案し、その理論的な性質を導いた。これらの方法は多次元モデルへの拡張が容易であり、角度データ、球面上のデータ、シリンダ上のデータ、トーラス上のデータに関する統計モデルの拡張とモデリングの道筋をつけた。②道路距離に基づいた到達圏解析を用いて、災害時の避難所へのアクセシビリティを推計し、避難時の災害弱者の推計と避難施設の最適配置に関する基礎研究を行った。③石川県羽咋市から国保データベース、市民情報の提供を受け、災害・防災時に災害弱者と想定される高齢者、要介護者等の避難時の災害時のサポートの必要な人々の居住地情報、人数、要介護度等の変数を利用して災害時の支援に関する予測分析を行った。④高齢化による到達可能距離の変化、生活関連施設(店舗、公共施設、病院、バス停等)から、生活脆弱度という尺度を定義し、地方都市の人口減少と高齢化の進展を原因とした活動可能範囲の縮小と事業所撤退確率を利用した地域の生活脆弱性分析とその予測モデルを開発し、地方都市の未来予想モデルを提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
石川県羽咋市と金沢大学の研究協定の下で、国民健康保険データベースと住基関連情報のの提供を受け、また、地図情報システム上の道路距離の計算方法の改良を行うことで到達圏解析に基づいたいくつかの新しい成果が上げられた。一つ目の研究成果は、災害時の避難所への到達可能者の人数推計、到達できない災害弱者の分析から災害時のサポート体制、災害時の避難支援(優先順位、要支援者の人数、居住地等)計画の策定が可能になった。2つ目の研究成果は、人口減少、高齢化による地方都市の変化を生活脆弱性の視点から、評価可能となった。その分析結果から、石川県羽咋市の分析例を挙げると、生活充足地域(市役所周辺の中心地)は25年後も利便性と人口を維持するが、その周辺地域の多くは、市民生活に必要なスーパー、銀行、サービス事業所の数が減少し、生活困難度が増加する。同じ市内でも人口の移動による集中化と過疎化が進み、市全体で見ると市の周辺地域の多くは過疎化と生活関連施設の撤退によるさらなる負のスパイラルが生じることが予測から明らかになった。 また、コロナ禍による影響で、当初予定していた本研究資金を利用した研究集会が中止となった。自治体との研究協定に基づいた後期高齢者データベース、要介護保険データベースと市の保有している住基情報の一部を提供してもらう手続きが遅れ、今年度内にデータの提供が困難になり、次年度に繰り越される実証研究が生じることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの実証研究に基づいた研究成果は、実用研究のレベルへ移行できる状況である。現在、国民健康保険データベースと住基情報の家族構成、年齢、住所、等の一部を利用できる突合処理が行われた。今後の予定の中にミクロ市民情報の追加項目とその提供方法に関する協議、連携協定の延長等の事務的プロセスを進めている。締結後には後期高齢者データベース、介護保険データベースに市からの税務情報(所得)、免許の返納情報等を突合することでさらなる分析が期待できる。所得、居住地、家族構成、要介護度、国保や後期高齢者の抱えている病名、身体的障害の部位(視覚障害、聴覚または平衡機能の障害、音声機能、言語機能の障害、肢体不自由、内部障害)と知的・精神障害等と家族内の避難支援能力の程度を上記のDB群から情報収集することで個々の市民へのアンケートや聞き取り等の情報収集や更新が不要となり、また、精度も高い情報が収集でき、その情報を多層的に分析する災害時の避難経路の誘導、初期段階の避難優先順位とサポートの必要性の有無、避難時の支援計画を策定していくことを目指している。これらは究極的には個々の災害弱者となる人々の個人単位のオーダーメード避難計画を目指している。 我々の研究で用いる研究で利用するデータベースは、国や地方自治体やコミュニティで蓄積、更新されている既存の情報を利活用することで避難時のネットワーク統計分析による脆弱性の評価、その優先度による防災計画、その中で個人に適したオーダーメード防災計画を策定し、誰一人取り残しのない避難時の対応方法を実用的な研究へと展開していく予定である。
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Causes of Carryover |
科研費最終年度及び本研究資金で開催予定であった「第21回ノンパラメトリック統計解析とベイズ推定」を令和2年3月26日ー27日に中央大学後楽園キャンパスで実施予定であったが、コロナウィルス蔓延の時期と重なり、やむなく開催中止となった。年度末の研究集会でもあり、開催経費、講演者旅費、報告書印刷費等を準備していたが、1月末に中止の決定を行い、次年度の同時期に中央大学で再度、開催する予定で準備を開始した。 また、国保データベース、後期高齢者データベース、介護保険データベースの情報を利用し、実証研究を行う予定であったが、大学と自治体(石川県羽咋市)及び関連機関との間で取り交わす情報提供に関する協定等の手続きが遅れており、コロナ禍の影響もあり、本年度の情報取得が困難となった。そこで次年度に各種公的保険データベース情報を提供いただく手続きを行うことになったため、次年度使用額が発生したことを報告します。使用計画としては、次年度に公的データベースのデータ取得に伴う突合作業、シンポジウム開催は本年度の予算の範囲で実施できると考えられる。
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Research Products
(11 results)