2017 Fiscal Year Research-status Report
更新意図の外形的推測に基づくビューの高度な更新可能性達成の理論と実践研究
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16K00152
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
増永 良文 お茶の水女子大学, 名誉教授 (70006261)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 関係データベース / ビュー / ビューサポート / ビューの更新可能性 / SQL / PostgreSQL |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,研究代表者が着想した「更新意図の外形的推測に基づくビューの更新可能性」,簡単に「意図に基づくアプローチ」という,に基づき,リレーショナルデータベース(RDB)のビュー更新可能性を理論的にも実践的にも極限にまで高めるための研究・開発を目的としている.本年度は3年計画の2年目であるが,初年度に引き続き研究協力者の石井達夫氏と長田悠吾氏(共に,SRA OSS日本支社)と共に研究・開発を行い,次に示すような研究実績を残すことができた. (a)理論的研究成果:我々が展開しているビューサポートの理論をRDBの現場に適用するには,理論的体系を集合意味論からバッグ意味論に拡張する必要がある.この問題に対して我々は初年度にバッグ代数に基づく基礎的結果を示してはいるが,本年度更にこの問題について考察を加え,その結果を国際会議(IMCOM 2018)に投稿し,採択され発表した. さらに,この問題を徹底的にフォーマルに議論することにより,「バッグ意味論の下でのビュー更新問題は制約充足問題に帰着されること」を明らかにした.一般に,制約充足問題はNP完全問題であり,これは世界で初めてビュー更新問題の本質を明らかにできた研究成果ではないかと考えられる.この成果は,とりあえず国内会議(DEIM 2018)で,2本の論文として報告した. (b)実践的研究成果:意図に基づくアプローチを世界で最も使われているオープンソースのリレーショナルデータベース管理システムPostgreSQL上で実装するべく研究協力者と共に初年度よりプロトタイピングに取り組んできたが,本年度はそのプロトタイプが完成し,それをPostgreSQLの開発者が集う世界的な会議であるPGCon 2017(カナダ・オタワ市で開催)に投稿し,採択され発表した.同様の結果を国内でも報告した(WebDB Forum 2017).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は平成28年度~平成30年度にわたる3年間のスパンを有する.その研究・開発のスケジュールは研究計画書の「研究計画・方法」欄に記載した通りであるが,初年度,そして平成29年度共に,計画通りに進捗している.ちなみに,初年度では,本研究の基となった「更新意図の外形的推測に基づくビューの更新可能性」,簡単に意図に基づくアプローチ,の理論がリレーショナルデータモデルが立脚する集合意味論に基づいている点を再考し,それをリレーショナルデータベースの現場であるSQLの世界で有効とするために,バッグ意味論への拡張に取り組みそれに成功している.さらに,その結果を受けて,意図に基づくアプローチをSQLの現場に適用するべく,具体的にオープンソースのリレーショナルデータベース管理システムとして世界的に受け入れられているPostgreSQL上に実装するべく,研究協力者の石井達夫氏,長田悠吾氏(共に,SRA OSS日本支社)と共に検討と重ねた.その結果,実装には様々な工夫が必要なことが明らかとなったが,平成29年度にはPostgreSQL上でのプロトタイピングに成功し,その結果をPostgreSQLの開発者が集う世界的な会議であるPGCon 2017(カナダ・オタワ市で開催)で発表することができている.これは実践的な成果であるが,平成29年度には理論的成果として,ビュー更新問題を徹底的にフォーマルに再考することにより,「バッグ意味論の下でのビュー更新問題は制約充足問題に帰着されること」を明らかにしている.一般に,制約充足問題はNP完全問題であり,これは世界で初めてビュー更新問題の本質を明らかにできた画期的な研究成果ではないかと考えられる.これは平成30年度に更に検討を加える予定であるが,当初の計画をはるかに超えた研究成果であると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は本研究の最終年度であり,次に掲げる点に留意しつつ本研究を締めくくる計画である. (a)バッグ意味論の下での意図に基づくアプローチによるリレーショナルデータベースビューの更新可能性の理論を徹底的にフォーマルにまとめ上げて,これまでのビューサポート理論の集大成を提示する. (b)バッグ意味論の下での意図に基づくアプローチによるビューサポート問題が制約充足問題に帰着されるという結果は,一般にビューサポートには指数時間かかるというということなので実用上問題をはらむ.そこで,この問題を解決するために,多項式時間でサポートできるビューのクラスを明らかにできないか,発見的手法を念頭に取り組む. (c)意図に基づくアプローチと従来型のアプローチと比較して最も異なる点は,前者はインスタンスベースでビューの更新可能性を決定するのに対して,後者はスキーマベースでそれを行う.従って,前者は後者では更新不可能とされている結合ビューや直積ビューを状況により更新可能とする.しかし,その見返りに前者は(中間)ビューを一時的にマテリアライズする必要があり,パフォーマンスが問題となる.本来更新を許されなかったビューが更新できるようになるという意味では,比較対象となるべきベースラインが存在しない問題ではあるが,パフォーマンス問題に取り組み,本アプローチの有効性を検討する. (d)現在,意図に基づくアプローチはオープンソースのPostgreSQL上でプロトタイピングされているが,PostgreSQLの開発者やユーザのコミュニティにこの取組を受け入れてもらうには,説得力のある事例を幾つか提示する必要がありそれに取り組む.関連して,本アプローチは,本来更新は不可とされているマテリアライズドビュー,つまりデータウエアハウス,の更新を可能とする理論とも捉えられる.その可能性を今後のために研究する.
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