2017 Fiscal Year Research-status Report
経験による色彩認知の熟達と高次視覚野における可塑性との関連
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16K00200
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
川端 康弘 北海道大学, 文学研究科, 教授 (30260392)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 色彩認知 / 熟達性 / 個人差 / 知覚学習 / 色識別力 |
Outline of Annual Research Achievements |
第1に、高次視覚における色の寄与を明確にするために、100hueテストを用いた性差を含む個人差の検討を行うためのデータを、前年度のデータ122人分と合わせ、計298名の実験参加者より得た。その内、健常者は291名であるが、色識別力の個人差が顕著であり、誤等数は7名の先天的色覚障害に近いものから0のものまで多岐にわたる。女性の誤等数は男性より低いが、多くの女性は色チップに対して化粧品サンプルをイメージしたと報告し、イメージできた参加者の識別成績は概ね高い。顔料や画材をイメージしたと報告する者もおり、彼らの成績は概ね良好である。色チップを日常生活の体験で扱った具体的な物やイメージと結びつけることができる能力は色識別力を向上させるようである。 第2に、知覚学習の熟達過程を検討するため、長期にわたる色識別の実験を行った。参加者は100hueテストを数ヶ月にわたり15回以上繰り返す。現在24名が実験に参加し、15回の進捗状況は人によって異なるが平均8.8回である。また色チップの色番号当て課題(色同定)も併せて行っている。色識別は、グラデーション中の適切な順番を全体との比較で構築する作業であるが、色同定は任意の色チップの絶対値を推定するものであり、難しい課題である。ただこれらの課題は、厳密な色見本を用いる仕事の職能訓練として一般的に行われており、習熟することによってその精度は増していくはずである。色識別では100hueテストを計10回以上繰り返した6名の参加者の場合、1回目では平均79程度あった誤等数が5回目以降25を下回り、10回目で8以下になった。一方色同定の誤等数は、最初200強あったが10回の繰り返しで140程度まで減少した。ただし0まではまだかなりあり、繰り返すことでまだ減少するだろう。色識別がほぼ完全にこなせる学習レベルでも、色同定ではまだ進捗の余地を残している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1の研究は、大規模な調査のため3年間で行う予定であったが、29年度中に当初計画していた人数の7割で実験が完了したため、次年度で予定通り完遂することができるだろう。また必要な分析についても個々人の色ごとの詳細な分析も順調に進んでおり、全体の集計作業も行える段階にある。また第2の研究については2年間で行う予定であったが、これもほぼ全体の8割強の参加者が実験を開始しており、全体の収集計画の6割が完了している。第3の高度職能者や芸術系学生の色識別及び同定特性についても2年計画で行う予定であったが、高度職能者(木工職人、技術者)はほぼデータ収集が完了しており、分析の段階に入っている。芸術系学生については10名程度の参加者が最初の条件を終了したところである。予定通り全体計画の5割強を完了している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は本研究申請の最終年度にあたる。第1の研究である100hueテストを用いた性差を含む個人差の検討については前年度に引き続いてさらに実験・調査を行い、残っている3割弱のデータ収集に努める。また第2の研究である、知覚学習による熟達の過程を検討する長期にわたる色識別の実験についても、本年度の早い時期に残りのデータを収集する。新たに20名程度が実験に参加し、すでに実施中の人についても残りの回数を行う。色識別については最初70以上であった誤等数が15回程度の繰り返しで5以下になるか、また色同定については、最初200強あったものが同じく15回の繰り返しで半分以下まで減少するか確認する。また一部の参加者については熟達過程の眼球運動計測を行っており、熟達化に伴って視線移動の様子が変わるかを検討する。 第3の高次視覚が関与する色識別と同定に関する研究についても、前年度収集を開始した高度職能者や芸術系学生のデータを引き続き収集する。また趣味人の色識別及び同定特性としてキノコ採取等の山菜採り名人についても実験を開始する。この実験についても眼球運動の計測を併用しているので、一般大学生のそれと比較することで、熟達者の視線移動の特徴を検討する。彼らが扱う特定の材料の色調に対して高い感受性がうかがえるので、典型色の範囲や着色加工による変化としてあり得る色調の範囲において彼らの優位性が見られるか検証する。また測定される色認識能力とfMRI による脳機能画像解析を対応させて見るために、一部の参加者の機能的脳画像データも収集する予定である。上記実験はすべて実験の進捗に応じ分担者と密接な連絡を取りながら適宜分析作業を進める。また最終年度にあたり総括をおこなうため、研究組織全体での研究報告と議論を行い、研究代表者が取りまとめる。
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