2016 Fiscal Year Research-status Report
「ナル表現」の認知言語学的研究-類型論を視野に入れて-
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16K00217
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
守屋 三千代 創価大学, 文学部, 教授 (30230163)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ナル表現 / 認知言語学 / 通言語研究 / 類型論研究 / 事態把握 / ナル / ナル相当動詞 / 自動性 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本語の「ナル表現」の特徴について、先行研究をまとめるとともに、「類型論を視野に入れた『ナル表現』研究会」を実施した。(2017年3月9日(木)10:00~17:00、3月10日(金)10:00~16:00 場所:創価大学)事前に認知言語学の概念である事態把握に関する調査項目と、「ナル」相当動詞・「ナル表現」に関する調査項目とを各言語担当者に送付し、回答を依頼した。担当者から返送された調査結果を分析して、研究会に臨んだ。 3月9日: Ⅰ.研究発表:「ナル表現」研究の課題:守屋三千代・AyseNur Tekmen(Ankara University)Ⅱ.調査結果の報告:日本語の「ナル表現」と各言語の翻訳について:守屋三千代 Ⅲ.各言語担当者の報告:1.トルコ語:AyseNur Tekmen・栗林裕(岡山大学)2.カザフ語:Abdulhak Malkoç(Mimar Sinan Fine Arts University)3.ヤクート語:南謙吾(創価大学大学院生)Evdokiya Okhlopkova (東北大学大学院生)4.モンゴル語:Munhktsetseg Tanga(Mongol National University)角道正佳(大阪大学名誉教授)5.韓国語:岡智之(東京学芸大学)・李琴(東京学芸大学大学院生)6.シンハラ語:宮岸哲也(安田女子大学)7.ロシア語: Svetlana Latysheva(上智大学)8.中国語:徐一平(北京外国語大学) 3月10日: Ⅰ.研究発表:日本語の「ナル表現」の通時的研究から見えるもの―古典文学に現れた「ナル表現」―守屋三千代・ 山本美紀(創価大学)Ⅱ.報告:調査結果の報告:各言語話者の事態把握とナル表現との相関性」守屋三千代 Ⅲ.全体ディスカッション及び総括。 この研究会を経て、「ナル表現」研究の課題が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
28年度の目標は各言語話者・研究者とともに「ナル表現」の実態を調査・確認することにあった。トルコアンカラ大学での実施及び検討会を予定していたが、政情不安により、トルコでの開催を見合わせ、3月に国内で開催した。計画に変更は生じたが、初の「ナル表現」の通言語学的な研究会が開催でき、一定の知見を得ることができた。その成果を研究者とともに共有することもできて、相当程度の成果を収めたと考える。 本研究会で様々な言語の「ナル表現」を検討・対照した結果、「ナル表現」は従来の日本語と英語の対照的指標にとどまるのではなく、ユーラシア全体に大きく広がる表現であること、ユーラシアの「ナル表現」は日本語のような変化の表現だけでなく、むしろ「出来→存在」を基本とすること、この点で英語とともに日本語の「ナル表現」はむしろ例外的といえることが観察された。すなわち、日本語の「ナル表現」は形式的に「(~ガ)~ニナル」の形をとり、意味的には変化を基本とし、自然的出来の表現は「実がナル」のような結実に限られる。「古事記」では神の誕生に「ナル」が用いられる例が見つかるが、その後この用法は見られなくなり、代わりに登場の意味の「ナル」が表れるが、それも現在には至らず、今も変化の意味が中心であると捉えられる。これに対し、ユーラシアの「ナル表現」は形式的に「~ガ/0ナル」という形式を基本とし、意味的に結実および「出来→存在」を基本として、変化をはじめ、誕生・登場・存在などを広く覆うものだと考えられる。ただし、「ナルようにナル」「~しナケレバナラナイ」のような人智を超えた必然的出来を捉える表現も日本語と同様に存在し、緩やかな連続性も見られる。以上は予想を大きく超えた収穫であるとともに、今後の研究計画の見直しと研究の具体的方向性を示唆する結果である。この点で、ほぼ十分に研究が進展したものと判断できると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
1.「ナル表現」研究の対象言語を増やすとともに、各言語から見た「ナル表現」の分析のための調査の観点をまとめ、調査項目の修正版を作成して、本調査を進める。 2.1と同時進行する形で、ユーラシアの「ナル表現」の実態を考察していく。前年度の結果として見えてきた、ユーラシアの「ナル表現」が「出来→存在」に向かうものであり、そのため、「デアル」を意味するコピュラとも深い関わりがあることに着目して、「出来→存在」の表現を旧約聖書/ヘブライ語聖書の創世記に求め、日本語および各国語訳とをつき合わせながら、「ナル表現」の表れ方とその意味用法を対照し、「出来→存在」の表現の実際を分析する。旧約聖書の場合、ほぼどの言語についても翻訳が比較的入手しやすいため、その点は研究の進捗には障害が少ないものと思われる。 3.旧約聖書の当該の文章のヘブライ語について、本来の意味を確認すること、聖書の語りの特徴についてより深く理解を深めることも急務である。この点については、旧約聖書の研究者の協力を得て、勉強会を行い、研究会全体で理解を深める必要がある。 4.旧約聖書から見える「出来→存在」の表現と日本語の場合との相違がある程度見えてきた段階で、様々な資料・コーパスを用いて、日本語の物語などの書き言葉の「ナル表現」を収集し、その翻訳文との相違について分析し、考察を深める。 5.事態把握と「出来→存在」の表現の相関について、前年度は十分な結果が得られなかったので、この点を改善することを目指す。旧約聖書のうち出来に関わる文章を取り出し、その場合の事態把握というものは、どのようなスタンスを持っていたのか、聖書の語りとともに、分析する。 以上の作業は、基本的に各言語担当者と研究会の場で行うべき、共同作業である。そのため、旅費・交通費などが相当程度必要になる可能性がある。
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Causes of Carryover |
「類型論を視野に入れた『ナル表現』研究会」は、もともとトルコで8月に実施する予定であった。しかしながら、政情不安により、2月ぎりぎりまで実施を見合わせた。結局今回は見合わせることとなり、3月に国内で実施することになった。そのため、時期的な計画と予算に大幅な変更が生じた。また、参加者が国内外の複数の地域にわたる結果となったこと、必要書類の送受信等に時間がかかったこと、何よりも年度末に予算の申請が行われることになったため、予算の執行の一部が29年度に繰り越された。 ただし、この研究会以外は、国内の類型論研究会への参加および資料の購入・収集などの予算は、計画通りに執行した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越された分のうち、ほとんどは既に使用しており、29年度での決済に当てられる。これ以外の29年度の使用分については、研究計画に即して、さらに「ナル表現」の類型論的特徴を調べる目的のもとで、旧約聖書及びそれに関連する資料の購入・収集および研究会および勉強会の開催に伴う旅費・謝金等を中心に、使用する計画である。 なお、来年度は日本語「ナル」の通時的研究を予定しているため、予算の金額が大幅に減る。しかし、今年度の研究に引き続き必要となることが見込まれるため、その点を考慮に入れて使用するよう心がけたい。
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Research Products
(5 results)