2017 Fiscal Year Research-status Report
聴覚野の情報表現に関する数理モデル研究:連続聴効果を例として
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16K00220
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Research Institution | Numazu National College of Technology |
Principal Investigator |
宮下 真信 沼津工業高等専門学校, 制御情報工学科, 教授 (20443038)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 繁 電気通信大学, 脳科学ライフサポート研究センター, 特任教授 (70281706)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 連続聴効果 / 神経ダイナミクス / 一次聴覚野 / 心理物理実験 / 音圧特性 / 皮質内相互作用 / カラーノイズ / スパイク応答モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
連続した音声に周期的に200ms程度の空白音を挿入すると、我々は途切れた音声を知覚するが、この空白音に音声の周波数を含むカラーノイズを挿入すると、ノイズ音を背景として連続した音声が知覚される。今年度は、はじめに音声として800Hzの純音を提示し、空白音に挿入するカラーノイズの音圧を変化させた場合の心理物理実験をおこなった。挿入するノイズの音圧をパラメータとし、全被験者数に対する連続音として知覚できた人数の割合を調べたところ、ある一定値よりもカラーノイズの音圧が低下すると連続音を知覚できなくなる限界点があることがわかった。この実験で得られた結果をシグモイド関数でフィッティングしたところ、連続した音声として知覚できる基準の音圧よりも6.18dB低下した所に変曲点があることがわかった。次に、モデル聴覚野の神経経路網に心理物理実験と同じ音声を入力し、モデル神経細胞の応答を調べた。ここでは、モデル細胞のスパイク応答から発火頻度分布を求め、純音のみの場合と挿入するノイズの音圧を変化させた場合との発火頻度分布の類似度を指標とした。その結果、音圧に対する類似度の分布はシグモイド関数でフィットでき、変曲点は8.13dBとなることがわかった。以上の結果から、連続した音声の知覚という心理物理実験が神経細胞の応答レベルで説明できること、ならびに連続聴効果は高次の聴覚野からのフィードバック信号によって誘導されるのではなく、一次聴覚野ですでに連続音知覚の基となる神経活動が誘発されていることが予測された。 これまでの成果を、日本神経科学会、米国神経科学会ならびに生物音響学会が主催する国際会議で発表した。近年、高等動物のマーモセットを使った聴覚領野の構造や、錯聴現象の一つである連続聴効果を引き起こす神経メカニズムの研究が着手されてきている。本研究で得た成果は、生理実験に対しても一助になると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画書では、空白に挿入するカラーノイズの提示時間を長くすると連続音が知覚され難くなる現象について、神経ダイナミクスのシミュレーション結果と比較する予定であった。このノイズ挿入時間に依存した知覚現象を説明するには、イベントが発生する時間間隔と神経活動との関係を調べる必要がある。興奮性の伝達物質であるグルタミン酸の受容体には、膜電位の時定数が長いタイプも報告されているが、連続聴効果との関連性を示す生理実験はあまり行われていないことがわかった。 そこで、今年度は挿入するカラーノイズの音圧と連続音知覚との関係について心理物理実験をおこない、数理モデルとの比較をするように方針を変更した。心理物理実験では、挿入するノイズの音圧が低くなると連続した音声が知覚され難くなることがわかった。心理物理実験で用いた音声刺激をモデル神経回路網へと入力し、モデル神経細胞の活動を解析した。その結果、心理物理実験での音圧とほぼ同じ値に連続音の知覚の限界点があることが見いだされた。以上のことから、当初の計画である”心理物理実験とモデル神経細胞の応答の関係を調べる”という目標は、概ね達成されたと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
連続聴効果では、背景として知覚される音声の音圧に対するカラーノイズの音圧は非常に大きいことが必要とされている。これは、カラーノイズは背景音声を十分にマスクするような音圧が必要なためである。今年度おこなったシミュレーションから、カラーノイズを提示したときに誘発される神経活動は、背景音声によって誘発される神経活動のレベルと同程度に抑圧されることがわかった。これは、皮質内の興奮性/抑制性の相互作用によって、神経細胞の応答強度が調節されている(ゲインコントロール)ためと予測された。そこで、皮質内相互作用を遮断した場合のシミュレーションを実行し、このゲインコントロールを引き起こすメカニズムについて研究を進める。 また、背景音声の周波数成分を含まないカラーノイズを与えた場合には、連続した音声が知覚できなくなるが、この刺激を入力したときのモデル神経細胞の活動について解析し、連続音知覚との関係について研究を進める。これまでに、音声が入力されたときと音声が途切れたときに一時的に強い応答を示す細胞が存在することが生理実験によって示されてきた。この応答特性が、途切れた音声として知覚される要因と考えられてきた。本研究では、時間-周波数や時間-音圧受容野を再現し、音声が入力されたときと音声が途切れたときの応答特性との関係を研究する予定である。
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Causes of Carryover |
シミュレーションを実行するための計算機を購入したが、当初予定よりも値引きがあったため、繰り越し予算が発生した。
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