2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K00222
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Research Institution | Muroran Institute of Technology |
Principal Investigator |
塩谷 浩之 室蘭工業大学, 工学研究科, 教授 (90271642)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
郷原 一寿 北海道大学, 工学研究院, 教授 (40153746)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | フーリエ逆問題 / 位相問題 / 位相回復 / 情報量 |
Outline of Annual Research Achievements |
回折イメージングとは,物体への入射波による物体波で回折パターンから位相を回復して,目標とする物体の実像を描く方法である.強度検出で失われた位相を何らかの方法で推定することで,位相回復とは位相問題の克服するときの方法全体を示している.位相回復の形容詞として複素を付けているが,数学的には目標物体が実空間上で定義される複素数値の関数であるので,問題設定として最も難しいとされている. 今年度においては,実験データでは必ず生じる回折パターンにおけるダイナミックレンジの関係で欠損が生じている回折パターンにおける補完をしながら,良質な複素位相回復の実現のためのシミュレーションを行った.そのために補完アルゴリズムを構成する必要がある.さらには適宜改良しながら適切なパラメータ設定が重要となる.基本に立ち返って目標物体が実数の場合で考えると,欠損を含む回折パターンでノイズが少ない設定では,物体のサポートがない状態でも位相回復は期待できる.そのままの設定,すなわちノイズと欠損のある回折パターンで目標物体が複素の場合は,これまでの既存の方法(Error Reduction,Hybrid Input Output,およびサポート構成法)では,残念ながら位相回復は期待できない.そこで物体のサポートが得られている条件では対象が複素であっても位相回復は期待できる.この設定で回折パターンに欠損とノイズを設定した状態で,提案する欠損補完付位相回復アルゴリズムの有効性を検証した.数値実験用に複素関数を設定してシミュレーションの回折パターンでの実験だけでなく,制限視野における電子線回折パターンを用いて,電子カウントに起因するノイズと検出器のダイナミックレンジで生じた欠損のある実験で得られる回折パターンに対して,複素位相回復による回折イメージングから実像を求め有効性を検証した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複素位相回復は,位相問題の中での難問とされる.複素位相回復について明らかになっていることは,実数物体の場合に比べ物体サポートに関する強い条件が必要とされることである.本研究では,実験データにつきものの電子カウントにおけるダイナミックレンジによる欠損のある回折パターン複素位相回復で,欠損補完と実像復元を行ったが,原理的な問題を抱えている.欠損補完が適切に行われているとすると,目標となる実像が得られるが,イメージングでの位相回復計算をしているときに,最適であることを保証できない.すなわち,欠損補完とその上での複素位相回復を行ったとしても,位相回復と実像復元を,目標物体を未知関数としたときの推定問題における,統計的に得られる解の一つに過ぎない.複素物体の位相回復においても,例外なく解の収束問題が,このイメージング研究の行く先の大きな障害となっている. 今年度の研究においては,欠損補完を用いた複素位相回復において,位相回復で得られる多様な解の空間分布の性質を解析した.具体的には,実空間上で定義できる物体全体の関数空間で,解全体の平均からの距離で射影することで分布を見出した.回折パターンに欠損がある場合には,本研究での提案の欠損補完,その比較として補完しない場合の複素位相回復,別な実験あるいは目標物体における先験的知識からの欠損部分の事前知識での補完があるが,提案している欠損補完は良質な結果を示している.よって,理論的な妥当性を得ることは難しいが,位相回復における実験データで必ず生じる欠損に,確実性が高い手がかりが得られたと考えている.複素位相回復を,実験で設定できる条件で実施できるものにするには,ダイナミックレンジによる欠損への対応にめどがついたとすると,後は物体サポートの問題となる.現時点で知られている物体サポート構成法に関する改良の必要性が明確となった.
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Strategy for Future Research Activity |
回折イメージングを扱う本研究課題では情報学の領域で設定をしているが,物質のイメージングから離れた研究では意味がない.複素位相回復においては,目標物体が複素であるので回折パターンだけでは回復はしなく,実空間の情報が必要である.実空間の情報で物体サポートは有用な拘束条件である.その要件が完備しているとは,視野のなかで見たい物質の位置や境界がわかることであるが,ナノ以下のスケールでは期待できない. 複素物体としても,回折イメージングの実験で付けられる実空間の拘束条件がある.それは複素物体にわかっている実数物体を混ぜることである.結晶構造解析において重原子置換法がある.金などの重い既知の原子を置くあるいは混ぜることでより結晶構造解析をし易くする.この場合は対象に結晶性があるが,回折イメージングで対象とする物体は周期性を仮定しない物体であるので,各段の難しさとなる.そこで,既知の部分を推定に有利に活用できる位相回復アルゴリズムが必要となってくる. 位相回復の基本として物体サポート以外の領域では強度ゼロの領域である条件で,フーリエ強度だけからフーリエ位相を回復している.物体サポートが完備されている場合には複素位相回復は期待できることはわかっているが,サポートは一般には得られていないことから,目標の複素物体に実物体を混ぜることで,実空間の既存情報,すなわち拘束条件を加えて,効果的に複素位相回復する全体的なアルゴリズムパッケージを構成する予定である.目標物体であるイメージングしたい物質に既知の実数物体を置くことは,実際の実験では不可能ではなく,そのバリエーションからより良質な実空間拘束条件を実験条件で作る方向性を示唆できる.物質科学におけるイメージングのための実用的な成果も視野に入れて,複素位相回復の情報学の研究を推進する.
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Causes of Carryover |
使用機材の予定価格との差異や,交通費等における時期における経費の差異などがあり,さらには,複素位相回復における計算量の増加で,数値実験を中心となったことで,実データの使用のための手続よりも,予定よりもシミュレーションに時間をかける必要性が生じたため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
関連研究機関への実データの使用のための依頼を,平成29年度に強く進める.そのための事前準備や打ち合わせが,予定よりも多く行う必要があり,それに充当することで使用する.
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