2017 Fiscal Year Research-status Report
省略解析のための漸進的な意味表示の構築に関する研究
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16K00313
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Research Institution | Osaka Gakuin University |
Principal Investigator |
大谷 朗 大阪学院大学, 情報学部, 教授 (50283817)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 繰り上げ構文 / 繰り上げ / コントロール / 認識動詞 / 叙述 / 表層構成的 / 対角付与 / 語順 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,Dynamic Syntax (DS) に基づいて,日本語の省略解析のためのDS文法を形式化し,コーパスの用例を解析することで文法の実用性を評価することを目的とする.そのため,先行研究のサーベイからはじめて,問題点の洗い出しおよびそれに対する代案,新規分析を経た新たな理論的形式化を提示し,用例の解析を行う流れで段階的に目標を遂行していくことを計画している. 本年度は,言語学の理論的分析(継続)および言語処理が扱う現象のサーベイにおいて,特に後者では検討されてこなかった構文,目的語への繰り上げ(raising to object: RTO)構文について考察し,その結果,学術論文として採択されたものを以下にあげる(書誌情報は「13.研究発表」を参照.2は学術書に採録予定). 1.Raising to Object in Japanese: An HPSG Analysis RTO構文は,対角目的語の統語的,意味的性質に関して興味深い問題を提起する構文として研究されてきた.この論文では,構文特有の語順の説明には二種類の主文述語,繰り上げとコントロール,が必要であり,また目的語は補文述語と叙述の関係にあることを論じ,主辞駆動句構造文法の枠組の下でそうし た文法制約の厳密な形式化を示した. 2.Note on Japanese Epistemic Verb Constructions: A Surface-Compositional Analysis 認識動詞構文は,変形に基づく統語理論において盛んに研究されてきた.この論文では,特に英語を対象に分析されてきたこの構文の統語的性質に注意を払いつつ,組合せ範疇文法の枠組に基づいて日本語の意味的性質を検討した.この構文は,表層的な主文目的語が補文の意味的な項をコントロールしていると捉えられ,その点では日英語の間に違いがないことが示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の計画の目標は,Dynamic Syntax (DS) に基づいて,日本語の省略解析のための DS 文法を形式化するために,先行研究のサーベイを終え,理論的形式化を行うことであった.そして,目標遂行のため,言語学研究からは省略現象の類型と各現象間の理論的関係を,また,言語処理研究からは省略解析におけるそのような現象の重要度および緊要の課題を調査することを具体的な作業内容として掲げていた. その上で「9.研究実績の概要」を振り返ってみると,「省略」という現象を直接扱った分析ではないものの,周縁の現象として,なおかつ日本語 DS 文法の骨子を考える上では重要な問題に関する新規の研究を行い,また,その成果を学術論文として発表,刊行している. 研究の進捗を評価する上では,論文誌等に採択されることが一つの基準であろう.二年目後半の目標として「制約の調整,追加などを行った日本語 DS 文法に基づく理論的分析の提示」が設定されていたことを考えると, 研究は「おおむね順調に進展している」と思われる. しかしながら,これまでに行ってきた理論的形式化では,解析を行うには十分な文法が構築できず.また,日本語文法の全般的特徴を考慮するあまりに,本来集中的に取り組むべき「省略」という現象についての考察の意義が希薄になってしまっている.特に後者は,前年度の研究を「当初の計画以上に進展している」と評価させた研究の延長線上ではあるものの,着目された成果をより進展させるために取り組んだ研究が DS とは別の枠組みに基づいていること(ただし,形式文法である点には変わりない),そして,特定の現象に特化してしまっていることから,本計画を減速させてしまっている点は否めない. 上記を総合的に考慮して,本年度の評価を「やや遅れている」とし,計画年度三年目は,総括も見据えて研究の方向性について確認,調整から開始する.
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Strategy for Future Research Activity |
前年度まで継続してきた言語学および言語処理の先行研究のサーベイを終え,周縁現象から「省略」現象にアプローチすることで,日本語文法体系における「省略」の位置付けを行う.そして,現象間の理論的な関係を考慮しつつ,文法解析における緊要な現象としてコーパスから抽出した用例を中心に,それらの解析に必要な文法骨子に足りない日本語文法の断片を補いつつ,日本語 Dynamic Syntax (DS) 文法のコアなフラグメントを形式化する. 言語学研究の調査は,引き続き必要に応じて行なわなければならないが,計画最終年度であることを考慮すると,本年度は言語処理研究のサーベイ結果をより重視する必要がある.当該分野における省略解析の研究の多くは,ゼロ代名詞とその先行詞との関係を,指示や補完の手がかりとしている.特に統計ベースの手法では,こうした関係が人手でアノテーションされたタグ付きコーパスを利用し,コーパス中に出現する省略関係の特徴を学習することで自動解析を実現しようとしていることが見受けられる. 本研究が行ってきた上記の予備的考察では,こうした言語処理の解析精度はコーパス内で定義された省略関係の定義に強く依存しており,また,そのような手法が抱える具体的問題点の一つはアノテーションの基準にあると捉えている.例えば,述語項関係が表層格関係でアノテーションされたコーパスでは,項が係り受け関係にない場合,同一文内もしくは前方の文からその項を補完するアノテーションがなされることが多く,この暫定的な対処は解析精度にも大きな影響を及ぼすものと思われる. そこで,本年度は,既存の省略解析における緊要な課題として,解析精度に強く影響を及ぼすコーパスのアノテーションスキームにとっても有用な省略現象の捉え方を,言語学的に,日本語 DS 文法に基づいて形式化することを目標とする.
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Research Products
(4 results)