2016 Fiscal Year Research-status Report
ベータ写像に基づくAD変換器を用いた製造誤差に頑健なユニバーサル乱数生成
Project/Area Number |
16K00333
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
實松 豊 九州大学, システム情報科学研究院, 准教授 (60336063)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
傘 昊 東京都市大学, 知識工学部, 准教授 (30400774)
篠原 克寿 一橋大学, 大学院商学研究科, 准教授 (50740429)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 乱数生成 / アナログ・ディジタル変換 / パイプライン型AD変換器 / 区間アルゴリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
β変換器に基づく乱数生成器に関して,平成28年度は以下の3つの結果を得た. (1) パイプライン型β変換器におけるβ値の推定法:(平成28年度研究計画①)PCM型AD変換器にはサイクリック型とパイプライン型の2種類があり,後者は広い面積を必要とするが動作が高速である.サイクリック型β変換器は回路実装されているがそのパイプライン版は実現されていない.最大の障壁は,既存のβ値推定法をパイプライン型に適用できない点である.提案法では,大量の出力ビット列からパイプラインの各段におけるβ写像を再現することでβ値を推定することが出来る. (2) 複数のβ変換器を用いた乱数生成器(平成28年度研究計画②)ベータ変換器は非常に小型なので,複数のβ変換器を搭載しても比較的小型で低消費電力な回路が設計できる.そこで2つ以上のβ変換器を利用して乱数生成を容易にすることが考えられる.従来,遅れ1の自己相関値は常に負となることが理論的に証明されていたが,半導体回路に実装されたβ変換器では,遅れ1の自己相関が正になる例が報告されていた.我々は,β写像の適用ごとに閾値が変動するモデルを採用することで正の自己相関が実現されることとしたがって従来の固定閾値のモデルは現実に即していないことを明らかにした. (3) β進区間アルゴリズム法の性能評価: β変換器出力ビット列は連続するビット間に強い相関を有し,ビット列の出現頻度に有為な偏りが生じる.研究代表者らは,平成27年にβ進区間アルゴリズム法を提案した.その有用性を,以前は各種の乱数検定法にパスするかどうかで判断していた.平成28年度は,その有用性を理論的に示した.まず,符号長nが十分大きいとき生成レートが log(β)/log(2)となることを示した.また一様分布と生成系列の頻度分布との変動距離がnの指数関数で減少することを示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書では,平成28年度研究計画として,①適応型β進区間アリゴリズムと②複数のβ変換器を用いる多端子乱数性を予定していた. ①に関して,計画通りパイプライン型におけるβ変換器のβ値を推定することに成功した.したがって①は十分に達成されたと言える. ②に関して,複数のβ変換器出力の排他的論理和をとる場合を解析した.従来の固定閾値モデルではなく閾値が毎回変動するモデルを採用し,現実の回路の動作に近づけた.②もおおむね予定通りであると言える. また,予定になかった研究成果 (3) を実施した.全体としては研究の進捗は順調であると判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は,β変換器と類似した黄金比変換器 (Golden Ratio Encoder)を利用した乱数生成に挑戦する.黄金比変換器はβ変換器を提案したDaubechies らが2010年に提案したAD変換器であり,入力アナログ値の,βが黄金比の場合のβ進展開が得られる.しかも,β変換器と異なり増幅率の推定が必要ない.Dauhechiesらは,黄金比変換器の動作の解析を2次元の力学系に基づいて議論した. 準備状況:平成28年度に實松と篠原は,黄金比変換器のパラメータがある特別の値のときの黄金比変換器の量子化誤差を解析し,これが1次元の力学系の場合に帰着され,2次元の場合より単純化できることを確認した. 平成29年度は,上記の結果を踏まえ,黄金比変換器を用いた乱数生成法を提案する.
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Causes of Carryover |
研究分担者の傘准教授への分担金直接経費15万円のうち,旅費を10万円と見積もっていたが,実際に使用した学会出張は関東地区への1回のみにとどまった.傘准教授は,学会参加費の支出に振り返るなどしたが2万9千円あまりが余ることとなった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
学会出張の旅費または学会参加費として次年度使用する計画である.
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