2017 Fiscal Year Research-status Report
概日リズムによる性周期制御の数理モデルとその不妊治療への応用
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16K00343
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
徳田 功 立命館大学, 理工学部, 教授 (00261389)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石村 憲意 立命館大学, 理工学部, 助教 (50779072)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 概日リズム / 性周期 / 同期 / 引込み / 振動子 |
Outline of Annual Research Achievements |
晩婚化が進み高齢に起因する不妊の問題が深刻化している.本プロジェクトでは,加齢による性周期の乱れと不妊との関係に着目する.概日時計による性周期の制御機構を理解することによって,性周期を整え,不妊対策の指針を得ることを目的とし,本年度は以下の課題に取り組んだ. 1. 経験的直交関数解析によるSCNスライスデータの分析: 中枢時計である視床下部視交叉上核(SCN)スライスの時計遺伝子発光レポーター活性(PER2::LUC)データに対して,経験的直交関数解析を行った.遺伝子欠損によって主要な振動モード数が大幅に増加し,ネットワークが脱同期することが分かった.特にCRY時計遺伝子ダブル欠損マウスの新生児では2クラスター状態が観測され,結合に関わる因子が弱まることを確認した.次に,野生型SCNスライスと遺伝子欠損型SCNスライスの共培養実験データを分析し,VIP結合とAVP結合の共存する場合には引き込みの効果が弱まることが分かった.哺乳動物が複数の結合因子を用いるのは,時差ぼけ等の環境の変化に柔軟に適応するためと考察した. 2. シフト勤務の影響:夜勤作業の性周期へ及ぼす影響を調査した.特に,日勤と夜勤の入れ替わり間隔の影響に注目し,マウスに対して,3日,6日,12日のローテションでシフトワークを行った影響を,行動計測(アクトグラム)およびスメア検査に基づいて調査した.ローテーションの間隔が短くなるにつれ,性周期に乱れが生じ,ローテーション終了後も3週間後にもわたって悪影響が継続することが分かった.このことは,現代では避けられない夜勤作業において,ローテーション間隔を十分にあけることが重要であることを示す.夜間に働くことよりも,昼夜の入れ替わりによって時差ぼけが生じることが問題であることが明確になった.昼夜勤のローテーションは妊婦には避けるべき作業であることが改めて浮き彫りとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画書で書いた内容の通りに進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 2振動体集団のネットワークモデル:AVPニューロンとVIPニューロンの2集団からなるSCNの数理モデルを構築する.視交叉上核におけるAVPニューロン特異な時計遺伝子機能不全の実験結果(Mieda et al., 2015,2016)から,AVPニューロンは中枢時計においてペースペーカの役割を果たすことが報告されたが,そのメカニズムについてはよく分かっていない.そこで,スライス発光データから,AVPニューロンおよびVIPニューロンの振動解析を行い,結合因子を介してネットワーク化する.特に,Ott-Antonsen近似を用いて二振動体に縮約し,分岐解析を可能にする.これによって,ペースメーカであるAVPニューロンに着目した時差ぼけ対策や,性周期の規則性を改善するための指針を得る. 2. 時差ぼけの数理モデル:概日リズムの乱れを引き起こし,性周期に影響する時差ぼけについて,数理分析を行う.時差ぼけの要因として,「前進および後退する2振動体の位相の拮抗」と「振動体の強さ(振幅)」のどちらが主因であるかを考察する.マウスの行動データを解析し,それぞれの仮説に基づいた数理モデルを構築して,比較検討を行う.特に,時間移動を行うタイミングの影響を調べ,加齢の影響も考察する.これによって,性周期の規則性を維持するための概日リズムの外乱に対する脆弱性を明らかにし,リズムを保護するための対策法を検討する. 3. 時計遺伝子乖離の分子生物モデル:時計遺伝子であるPerおよびBmalが同じSCNスライスにおいて乖離する問題(Ono et al., 2017)に対して,乖離が同一の細胞内で起きるのか,別々の細胞集団によるものなのかを判別する.さらに,乖離が,引き込み位相の過渡的な変化のプロセスなのか,あるいはスプリッティングなのかを見極め,時差ぼけおよび加齢との関連を考察する.
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