2016 Fiscal Year Research-status Report
脳を模倣したパルス駆動ハードウェア自己組織化マップ
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16K00344
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
肥川 宏臣 関西大学, システム理工学部, 教授 (10244154)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 勝者検索回路 / 周波数変調信号 / ハードウェアSOM / WTANN / ニューラルネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
自己組織化マップ(SOM)は人間の脳における情報処理を模倣したモデルで,広範な分野で応用研究が行われている.実際の脳はパルス信号により情報伝達していることが知られている.本研究では情報を周波数変調パルス信号として処理するハードウェアSOMの開発を行う.より生物学的な脳に近いシステムを構築することで,人工知能研究への新たなアプローチを目指している. SOM の重要な処理に勝ちニューロンの検索がある.通常の演算では数値比較で実現可能だが,提案システムでは周波数変調パルスを情報伝達に用いるため,正確な周波数比較回路が必要となる.昨年度は提案するハードウェア SOM への使用を想定した周波数比較回路とそれを利用した勝者検索回路の開発を行い,シミュレーションと実験により提案する周波数比較回路により正確な勝者検索が可能なことを確認した. さらに,勝者検索の他に SOM の学習機能実現に必要なベクトル更新回路などの構成要素回路の開発を行い,それらを使用したハードウェア SOM 全体のアーキテクチャをまとめた.そして,アーキテクチャの有効性を調べるために,プログラム可能な素子である FPGA に提案するハードウェア SOM を実装し,オンチップ学習実験を行った.小規模の SOM を FPG 上に実装し,様々な入力パターンを学習できることを確認した. また,提案する SOM が目指している脳の重要な機能に認識・分類機能がある.SOM のパターン認識に対する能力を調べるために,指文字認識,ハンドジェスチャー認識,移動ロボットが撮影した室内画像からロボットの位置認識への応用を行い,SOM による認識性能を調べた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
提案するハードウェア SOM は内部の情報伝達に周波数変調パルスを使用する.これは生物学的脳がパルス信号により情報伝達を行うのを模倣したものである.昨年度は研究計画として予定していた正確な周波数比較回路とその回路を使用した勝者検索回路の開発を行った.その有効性を調べるために,提案する勝者検索回路を VHDL で記述し,Winner-take-all ネットワーク(WTANN)に応用し動作確認を行った.その結果,正確な勝者検索ができることを確認した.この研究結果を国際会議(IEEE ICECS2016)で発表を行った. 学習機能をハードウェアとして実装するため,内部情報更新機能を必要とする.勝者ニューロンの近いニューロンほど強い更新を行う.そのために通常は近傍関数を使用するが,本研究では,勝者ニューロンが更新パルスを近傍に分配する方法を提案した.更新量はこのパルスの周波数に比例するため,勝者ニューロンに近いニューロンほど強い更新を行い,上記近傍関数と同様の学習ができる.これらの回路をまとめたハードウェア SOM の動作を実験により確認した.これは次年度に予定されていた内容だが,年度前倒しで研究を進めることができた.この成果をまとめて国際ジャーナル(IEEE Trans. on Circuits and Systems)に投稿した. 提案する SOM は生物学的な脳の模倣を目指しているが,脳の重要な機能である認識機能について SOM の性能を調べるため,SOM のパターン認識能力を調べた.指文字認識,ジェスチャー認識,移動ロボットの室内画像からの位置認識への応用を行い,高い認識性能を持つことを示した.国際会議(IEEE ISCAS2016, IEEE SSCI2016)で成果発表を行った.
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況で述べたハードウェア SOM アーキテクチャの動作確認は小規模の SOM でしか実装実験を行っていない.これをより多くのニューロンを含む大規模な SOM に拡張することで,さらに提案するアーキテクチャの有効性を示す.現状では規模を大きくすると一部動作が不安定になる問題がある.回路の動作がパルス信号によるため,細かなパルスのタイミングの遅延により誤動作が生じているものと思われる.現有のロジックアナライザで回路信号の詳細を調べることで,より遅延に強固になるよう改良を加える. 上記回路改良と並行して,本研究で提案する疑似好奇心機能の検証を行う.これは,人間の未知のものに対する好奇心に伴う強い学習を模倣したものである.入力データにもっとも近いデータを持つニューロンが勝ちニューロンとなるので,すでに学習済みの既知のデータか新しく与えられた未知のデータかは,勝者ニューロンの持つ内部データと入力データとの差で評価することができる.過去の勝者ニューロンデータと入力データとの差の平均をとり,それと現在のデータの差を比較することで習熟度,既知の度合いとする.この習熟度に比例して学習係数を変え,学習の強さを調整する.通常の SOM では一定の時間内に更新係数を小さくしていくため,学習時間内の入力データ変化に追従できず学習時間後は学習できない,という問題がある.これに対して,提案する方法だと未知の入力に対しては強い学習を,既知のデータに対しては弱い学習を行うので,入力データに追従する学習を時間に関係なく続けることができるようになる.この学習方法は従来の SOM とは全く異なるので,本年度は,念入りなシミュレーションを行い,学習性能への有効性の確認を行う.
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Causes of Carryover |
実験,シミュレーションに学生の実験補助を計画していたが,間接経費から支出したため直接経費で計上していた実験補助用の謝金が予定より支出が少なくなったため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は,当初の交付額に平成28年度からの繰越額を加え,平成29年度は次のような使用計画とする. 実験装置(FPGA ボード)の購入費を物品費として500千円,国際会議での発表を想定し,旅費として400千円,実験補助(3名×50時間分)と英語論文の校閲費用として謝金を210千円,論文の投稿費をその他の支出として100千円の使用を計画している.
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Research Products
(5 results)