2016 Fiscal Year Research-status Report
眼科治療のストレス低減・セキュア向上を目指すコンピュータシステムの構築
Project/Area Number |
16K00431
|
Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
上浦 尚武 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (80275312)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 眼科医療支援 / ストレス / クオリティ・オブ・ビジョン / 待ち時間予測 / 個人認識 / 検査種自動決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,眼科に通院・入院している患者に対し,治療前後における精神的負荷に直結する様々なストレスを消失・軽減させるととともに,安全性,クオリティ・オブ・ビジョンの大幅な向上が可能となるシステムの開発を目的とする.具体的な研究テーマおよびその実績概要について以下に示す. 1.眼科院内滞在時間短縮システムの開発:データ提供元のツカザキ病院眼科(兵庫県姫路市)に対し,外来患者の待ち時間予測法を確立した.シミュレーション評価により,同方法はストレスを感じない基準である予測誤差30分を満たすと示された. 2.眼科小規模入退室管理システムの開発:瞳孔部の高精度抽出が可能なアルゴリズムを確立するとともに,前眼部OCTから得た角膜厚データを使用した診察室および手術室用小規模個人認証システムを構築した.これは45人を対象とする実験で,個人識別100%を達成した. 3.眼科検査種決定システムの開発:ツカザキ病院眼科から提供された問診票手書き文に日本語形態素解析システムであるMeCabを適用し,名詞,形容詞を分離するとともに,その中から各問診票手書き文の特徴に関連する重要なキーワードを選ぶ.そして,キーワード出現回数を要素値としたベクトルにより,検査種4群のうち1群を各患者用として選ぶ自己組織化マップを作成する.マップの観測により,検査種各群に対応するニューロンクラスタが,マップに良好に形成されたことが確認できた. 4.眼科手術術後屈折度計算式決定システムの開発:SRK-T,Holladay,HofferQを選択すべき屈折度計算式とし,患者データに式名をクラスラベルとして与え,式決定を自己組織化マップに基づくデータ分類問題として解決するアルゴリズムを確立した.アルゴリズム実装後の実験により,サブクラスタが見られるものの各式に対するニューロンクラスタが,マップに形成されたことが確認できた.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.眼科院内滞在時間短縮システムの開発:28年度は,ツカザキ病院における来院時間間隔と来院人数分布のモデル化までを予定していた.一方,実績では,検査室や待合室における受診順や会計順のルールベース化,待ち時間予測,通院交通情報取得など,29年度および30年度に予定していたコンピュータ実装項目まで達成できた.以上より,本研究テーマは,当初の計画以上に進展しているといえる. 2.眼科小規模入退室管理システムの開発:28年度は,角膜画像からの瞳孔部高精度抽出法の実装,瞳孔部中心線上下各部の黒画素分布観測による患者左右眼判定法の実装を予定していた.これらについては達成し,その意味ではおおむね順調に進展しているといえる.ただし,実験の結果,これらは入退室管理システムの開発に大きく貢献しないであろうことが明らかとなった.そこで,前眼部OCTによって観測された角膜情報を処理対象とした場合に,個人を高確率で識別できると予測し,Pachymetry(前面垂直方向の角膜厚)値に基づく個人認証システムを開発した.これは29年度に予定していた項目であり,この点から本研究テーマは当初の計画以上に進展しているといえる. 3.眼科検査種決定システムの開発:問診票手書き文からの特徴ベクトル化およびそれによる自己組織化マップの作成までを28年度までは予定していた.これらは完成しており,この点から本研究テーマはおおむね順調に進展しているといえる. 4.眼科手術術後屈折度計算式決定システムの開発:データから自己組織化マップを生成し,それにSRK-T,Holladay,HofferQ式に対するニューロンクラスタが形成されると確認できたが,医師から別種の式(Haigis)も考慮すべきとの意見があり,この点から本研究テーマはやや遅れていると見なせる. 以上,本研究は総合的にはおおむね順調に進展しているといえる.
|
Strategy for Future Research Activity |
1.眼科院内滞在時間短縮システムの開発:本テーマは,受診順や会計順のルールベース化,待ち時間予測,通院交通情報取得など,2年度以降の目標項目を達成している.そこで,最終年度に予定していたシステム操作性向上の一歩として,医師の意見を多く取り入れたGUI開発に注力する.また,初年度は公共交通機関として鉄道のみを通院利用としていたが,バス,自家用車を選択した場合にも通院時間情報を提示できるようにする.以上により,通院・治療以外に使える可処分時間が増加可能となるシステムの開発を目指す. 2.眼科小規模入退室管理システムの開発:初年度に半径32方向角膜厚数値情報を利用した個人識別システム開発に成功した.ただし,これは半径各方向におけるPachymetryの最大値および最小値からなるベクトルを照合・登録時に採取し,照合データ-登録データの距離を計算する単純なものであった.これでは,未登録データをシステムに与えても,そのデータとの距離を最小とする登録データに該当する人物が,未登録データに該当する人物とみなされる.2年度以降はこのような未登録データに対する棄却率向上を目指す.具体的には,指紋認証に採用されている指紋量子化をPachymetry値分布に活用する. 3.眼科検査種決定システムの開発:初年度のシステムは,単語の出現回数が単純に要素値となったベクトルを学習データとして採用している.2年度は,単語間かかり受け関係を考慮したデータ生成アルゴリズムを確立し,上記システムに組み込む.また,問診票自体の書式も検査種決定精度が向上するように改変し,この結果を自己組織化マップ学習のためのデータ生成に取り入れる. 4.眼科手術術後屈折度計算式決定システムの開発:Haigisも選択可能な式とするようにシステムを構築する.また,追加学習機能が備わった自己組織化マップを式決定ツールとして採用する.
|
Causes of Carryover |
本研究のテーマの一つである「眼科院内滞在時間短縮システムの開発」では,通院交通情報,すなわち外来患者が家から病院までどのような公共交通機関を利用し,どの程度の移動時間が必要かを,病院での待ち時間および滞在時間と合わせてシステム使用者(医師や患者)に通知することを一つの達成目標としていた.本研究では,そのような交通情報を市販のAPI(アプリケーションプログラムインターフェイス)を通じたインターネットから取得する予定としており,その費用として40万円程度を見込んでいた.しかし,本研究で使用した「駅すぱあと」では,システム開発製品導入検討用として無料トライアル版が利用可能であったため,初年度はこれを利用した.以上より,約38万7千円が残額となった.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度の直接経費は,次年度使用額となった38万7千円を加えると127万7千円となる.また,29年度は「駅すぱあと」の無料トライアル版の有効期限が切れている.したがって,その購入費用として38万7千円を消耗品費に加える.従来,論文別刷代として6万円計上していたので,消耗品費は計44万7千円となる.旅費は国内学会参加費用として 12万2千円(東北大・明治大などへのべ3回),海外学会参加費用として30万8千円(アメリカ・欧州へのべ2回),計43万円と見込んでいる.人件費・謝金としては,プログラム作成やデータ整理のために大学院生に14万円支払うと計画している.最後に、その他として,学会誌投稿費用として14万円,国際会議登録費として12万円,計26万円と見込んでいる.以上を合算すると,支出額は直接経費と同額の127万7千円となる.
|
Research Products
(3 results)