2017 Fiscal Year Research-status Report
戦後70年の記憶と映像アーカイブの社会循環的機能に関する研究
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16K00467
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
水島 久光 東海大学, 文学部, 教授 (30366075)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 歴史情報 / 映像アーカイブ / 記憶と記録 / 戦時体験 / 証言と解釈 / 日常性バイアス / 1930年代 / 人道に対する罪 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、代表者が2015 年に着手したアジア太平洋戦争の記憶と映像にかかわる4実践(A.証言映像の収録、B.記録の発掘・修復と保全、C.放送番組の分析と活用、D.記憶の共有を図るコミュニケーション実践)を基点に、その循環性に鑑み、認識のツールとしての「映像アーカイブ」の公共性を実現していく試みである。2017年度は、まず前年度の各分野の成果を発展させた。A.神奈川県伊勢原市でのプロジェクトでは、既に収録した10名のインタビューに関する紀要論文を発表(「70年の時差―伊勢原市・戦争体験者インタビューとワークショップ」)、視聴用の総集編映像を制作し発表。新たなプロジェクトとして他地域の証言収録、伊勢原市内の被爆者の体験収録の準備を開始。B.の成果としては論文「映像の誕生と空間の可視化―パテ・ベビーと日本の1930年代」を発表、また発掘された福島県須賀川市所蔵映像(1939年)の分析から論文「発掘された戦時記録映像の分析―非日常と日常の境界を読む(前編)戦時への助走路」を紀要にて発表。同論文後編に向けた作業として沖縄県公文書館が所蔵する「一フィート運動」映像の調査を行った。C.ではNHKアーカイブスの教育・研究用試作システム(「番組eテキストシステム」)を用いドキュメンタリー『和賀群和賀町』ほかいくつかの番組の分析を行い、2001年に放送され2009年にBPO放送倫理検証委員会で審議された「ETV2001;シリーズ戦争をどう裁くか」の横断的検討を行った。D.は伊勢原市でのワークショップの継続のみならず戦後史に関わる映像・写真を用いた記憶の想起に関わる研究を夕張市、仙台市、平塚市、あきる野市などでも行い方法論の検討を行った。さらにA~Dの実践は徐々にオーバーラップしつつあり、1930年代の民衆心理、被爆体験、戦後意識の受容などいくつかのテーマのもとに束ねられつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
戦争に関わる「映像アーカイブ」の問いは、73年を経過した現在から歴史的事実としてそれを如何に振り返るかという課題と、記録としての「映像」の担いうる意味との交点にある。双方とも、材料はある意味膨大に存在しているが、逆に核心にリーチするための資料はまだ乏しいといえる。3年という限られた期間における研究では、前半はその資料を見定めていく過程と考えざるを得ない。その意味では、十分とは言えないが、4つの実践的アプローチによって、ある程度必要な素材が入手できたと考えることができよう。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、最終年であるため、新たな資料収集よりも分析に時間を割く必要がある。放送的表象と、市井に残される映像アーカイブとの間をつないでいく論考を複数立てて研究を進めていくが、1932-9年、1944-5年の二つの節目、及び戦後についてクロニクルな視点をもって執筆計画を立てていく。
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Causes of Carryover |
2017年中に購入予定の映像関連機材と作業関連人件費について、年度内は論文執筆に時間を割き、使用予定を翌年(2018年)に延期したスケジュール変更の関係上、支払い予定も2018年度に移した。
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