2017 Fiscal Year Research-status Report
実世界の物理制約を曖昧化するパフォーマンス装置の研究
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16K00507
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Research Institution | Tokyo Denki University |
Principal Investigator |
松浦 昭洋 東京電機大学, 理工学部, 准教授 (50366407)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 滑り / 転がり / 摩擦 / 超音波モータ / シミュレーション / アミューズメント / 凸回転体 / ブロック |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主に以下の成果を得た。 1. 物体の滑り時の速度を可変化する研究に関して、円板型超音波モータを接地面に付し、Arduino、XBee、ニッケル水素電池を積載した無線滑りデバイスを開発し、PCからの印加電圧の制御によりデバイスの滑り速度の変更が可能なことを確認した。 2. 複数の円筒面上で棒(バトン)を転がし操作するアミューズメント・パフォーマンス装置に関して、バトンと曲面・地面間の摩擦係数、バトンの初期荷重、リリース方向等をパラメータとした運動シミュレーションを行い、バトンが三円筒面上を連続的に転がるパラメータの値を複数発見した。1、2の成果は映像表現・芸術科学フォーラム2018で発表した。 3. 凸回転体(特に楕円体)を卓上ディスプレイ上で転がすアミューズメント装置に関して、楕円体の姿勢(水平、垂直)と運動(スピン、ロール)による4種類の操作方法に分類し、それぞれの特徴を活かしたドローツールやシューティングのコンテンツを制作し、SIGGRAPH Asiaで発表した。 4. 三脚巴形状のブロックに関して、嵌合部分がある種の平行性をもつとき、三つ以上のブロックが嵌合した状態から二つのみに力を加え、ブロック全体をスライドイン/アウトさせることができる、という直感に反する嵌合特性があることを発見し、本性質をもつブロックの族を二種考案した。本成果はBridges 2017で発表し、試作品をAsian Digital Modeling Contest 2017にエントリーし入選した。さらに、ひし形12面体と切頂8面体を用いた多様な嵌合バリエーションをもつ構造体も開発し、形の科学シンポジウムで発表した。 5. 半球面内に棒を入れて揺らす「棒振り子」を考案し、棒が半球面内に留まる場合と一端点が半球外に出る場合について、棒の角加速度を理論的に導出した。本成果は形の科学シンポジウムで発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
まず、以下の点で対外発表につながる進展があった。 物体の滑り速度可変化に関しては、地面に接地可能な線形の超音波モータが入手困難なことから円板型のモータを採用し、その微細な振動で速度の変更が可能な無線デバイスを実現した。アミューズメント装置やパフォーマンス装置の形状や物理パラメータをシミュレーションによって発見する枠組に関しては、曲面上でバトンを転がす装置を対象に3Dモデルの構築とシミュレーションを行い、摩擦係数やバトンの初期荷重について高い運動性をもつパラメータの値を複数発見した。その過程で、曲面形状、材料の物理特性、バトンのリリース方法等可変な要素と値は無数にあるため、形状や操作法に一定の制限を加えた探索方法が妥当なことが示唆された。凸回転体(楕円体)に関しては、操作法を四つに整理し、それらの操作性を活かしたコンテンツを制作し代表的な国際会議で発表することができた。ブロックに関しては、ある種の三脚巴ブロックが複数個連動してスライドする嵌合特性をもつことの発見、ブロックの族二種の考案、空間充填可能な他の平行多面体を用いた構造体の考案等ができ、特許出願、国際会議発表、コンテストの入選等につながったのは大きな進展と言える。棒振り子は物理書籍の調査中に生まれたアイデアで、摩擦のない条件下で厳密な物理解析を行うことができた。 これらの進展の一方で、ドローンを用いた仮想重力下での擬似的飛行やトランポリンの膜によるボールのバウンスバック運動等は本年度研究したものの実現できなかった。また、多数の人が鑑賞可能なパフォーマンスのための実スケールの装置製作と実演作品の発表も、本年度は上記の課題を優先したため実現しておらず、次年度の課題である。 以上のように、本年度は様々な進展もあったが、重要課題の実スケールのパフォーマンス装置と実演に関する進展が遅れているため、総合的に「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、特に以下の各課題に力点を置き、研究を進めていく予定である。 1. 滑り速度の可変化に関しては、デバイスのリアルタイム速度制御の検討、ヘッドマウントディスプレイを利用した仮想的な摩擦条件を利用したMR(複合現実)アプリケーションの開発を行う。 2. 凸回転体の運動の利用に関しては、運動に同期した音生成機能の実現と、プレイフルな操作感をもつ新しいエンターテインメントコンテンツの開発を行う。コンテンツは、プレイヤーのみが楽しめるだけでなく、プレイヤーの巧みな回転体の操作がパフォーマンスとして第三者の鑑賞にも耐えうるものとなることを目指す。 3. ブロックについては、まず前述の三脚巴ブロックの嵌合特性の理論的解明を行う。同時に、三脚巴以外で類似の嵌合特性をもつより一般的な形状のブロックを特定する。平行多面体ベースのブロックについては、嵌合バリエーションを具体的に調べ、さらにブロックの新たな応用方法も検討する。 4. これまで運動性や操作性を検証していない幾何形状に関しても、試作を通じて製作方法や部材の検討をしながら、新たな運動性・操作性をもつものを探求・発見し、それらの特徴に応じ、アミューズメント装置・パフォーマンス装置・インタラクティブシステム等として実現する。 5. 特に高い運動性をもち技巧性を発揮できる装置に関して、実スケールのパフォーマンス装置として製作し、パフォーマンスとしても発表する。
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Causes of Carryover |
(理由) 当初線形超音波モータを購入予定であったが、本研究の用途に合致したものが入手できず、より安価な円板型超音波モータで代用したこと、実スケールのパフォーマンス装置製作やイベントを本年度行わなかったこと、論文の別刷代が発生しなかったこと等が要因である。 (使用計画) 実スケールのパフォーマンス装置の製作やパフォーマンスイベントの実施、国内外のエンタテインメントコンピューティング、数理アート、メディアアートに関する会議での発表、論文の別刷代等で使用する予定である。
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Research Products
(10 results)