2017 Fiscal Year Research-status Report
衛星と現場観測による氷厚分布変動の監視および季節海氷域の海氷力学過程の解明
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16K00511
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
豊田 威信 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (80312411)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三寺 史夫 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (20360943)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 季節海氷域 / 海氷力学過程 / リモートセンシング / レオロジー / 気候変動 / 氷盤分布 / 数値海氷モデル / 海氷ー波相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究計画に基づき、1.北極海およびオホーツク海における現場検証観測、2.衛星画像を用いたリッジ分布と氷盤の解析、3.従来の海氷力学過程の検証に取り組んだ。 1.について、研究協力者(Haas)が2017年3月に北極海で航空機搭載型EMを用いた氷厚分布の観測を実施した。しかしながら、観測海域は季節海氷域からは外れた上、PALSAR2画像からは大きく離れていたため解析は断念した。カナダ砕氷船を用いたボーフォート海観測は資金難により中止された。一方、研究代表者によるオホーツク海南部の海氷観測は2018年2月に実施され、オホーツク海では初めてドローンによる海氷観測を遂行できた。しかし、天候状況により解析には適さない大きな氷盤上での観測一回に限られた。米国NGAの高分解能画像に関しては、研究協力者(Hutchings)がようやく利用の目処を付けたので今年度から解析に着手できる予定。このように観測データが十分得られなかったため、2.については前年度に開発したリッジ分布を抽出するアルゴリズムに関する論文の執筆に取り組むこととした。以上の状況により、昨年度は3.に関する論文の執筆に重点を置いた。このため、海氷力学の専門家である研究協力者(Hutchings:オレゴン州立大学)を訪問して議論を重ね、現在多くの数値海氷モデルで用いられている力学過程、特に塑性体としての振る舞いに着目して従来の手法の妥当性をオホーツク海と北極海を対象として観測と理論から比較検証した。特に従来慣習的に用いられてきた降伏曲線に物理的な意味を見出した点は重要と考えており、論文は査読者からも高く評価して頂いた(公表済)。 以上、観測データに関しては当初の予定通りに入手することはできなかったものの、今後力学過程を考察するための解析方法や理論的な基盤を整えることができたため有意義な成果が得られたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は衛星L-band SARを用いて広域の氷厚分布を推定するアルゴリズムを構築して北極海やオホーツク海の氷厚分布変動を監視し、数値海氷モデルで用いられる海氷力学過程の改良を行うことを目的としている。初年度は過去にオホーツク海で取得したPALSAR画像を最大限活用する方針で研究を進め、季節海氷域の氷厚分布と密接に関連している表面のリッジ(凹凸)分布を抽出するのに衛星L-band SARは適していることを確認し、抽出アルゴリズムを確立した。昨年度は次のステップとして北極海の現場観測データを基にPALSAR2から氷厚分布を推定するためのアルゴリズムを開発すること、ドローン等を用いて比較的小さな氷の氷盤分布の特徴を見出すこと、それに従来の数値海氷モデルの力学過程で用いられてきたHiblerの海氷レオロジーの有効性を観測データから検証した論文を執筆することを目指した。 研究実績にも記したように、PALSAR2画像の利用に関しては北極海で実施した観測海域とうまく重ならない等の制約が生じたことなどから計画を若干変更し、従来の数値海氷モデルを観測から検証した論文の執筆に力を注いだ。これはオホーツク海を対象にPALSAR画像から氷厚分布を推定する回帰式を検証した上で、衛星画像や沿岸レーダーを基に推定した漂流速度データを基に、モデルにおける海氷の力学過程の取り扱いを吟味したものである。結果としてHiblerの海氷レオロジーの物理的な意味を見出すとともに、季節海氷域に適用する際の問題点を整理することができた。 このように、観測データは予定通りには取得できなかったものの、季節海氷域の氷厚分布に衛星L-band SARが有用であることを確認し、季節海氷域における力学過程に関する理論の適用性を示した論文を出版できた点は有意義であり、最終年度の研究の総括に向けての準備を整えられたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は本研究課題の最終年度にあたるため、前二年間で確立されたリッジ(表面凹凸)域や氷厚分布を推定するアルゴリズムを用いて可能な範囲で北極海とオホーツク海のリッジ分布のモニタリングを行う一方、得られた結果を基に研究の総括を行う計画である。具体的には、1.衛星画像の解析、2.海氷力学過程の検証について次の通り研究を進める予定である。 1.について、まず初年度に確立した、L-band SARの後方散乱係数と入射角からリッジ域を抽出するアルゴリズムに関する論文の執筆に力を注ぐ予定である。次に、予算の許す範囲で北極海とオホーツク海でPALSAR-2画像を収集し、このアルゴリズムを用いて両海域のリッジ分布の時空間変動を解析する。両海域で解析された表面凹凸分布と氷厚を比較することにより、L-band SARから氷厚分布を推定する手法の正当性を再度検証するとともに、海氷力学過程を検証するための基礎資料とする。2月には研究代表者がオホーツク海南部の海氷観測を巡視船「そうや」に乗船して再度氷厚および氷盤分布の現場データを取得して検証に役立てる。また、本研究課題のもう一つの重要なテーマである氷盤分布の解析については、米国NGAの高分解能画像が利用可能となり次第、解析に着手する予定である。2.について、昨年度に公表した論文を更に発展させて、1.の解析結果も参照しながらより一般的な季節海氷域の海氷力学過程の特徴を見出すことに力を注ぐ。すなわち、解析領域を更に拡げて様々な海域の変形場の特性を比較検討し、季節海氷域の実態に見合った力学過程を数値海氷モデルに組み込む手法の開発を行う。そして最終的には本研究課題の総括を行う。 なお、得られた研究成果については北極海の国際研究プロジェクト(MOSAiC)のワークショップ(5月に独ポツダムで開催)の他、国内・国際学会で発表する予定である。
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Research Products
(26 results)