2016 Fiscal Year Research-status Report
溶存有機炭素フラックスが森林生態系の土壌圏炭素動態と微生物群集に与える影響の解明
Project/Area Number |
16K00513
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
吉竹 晋平 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 助手 (50643649)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大塚 俊之 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 教授 (90272351)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 落葉広葉樹林 / 溶存有機炭素(DOC) / 樹幹流 / 林内雨 / リター / 炭素循環 / 土壌微生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、森林の炭素循環を考える上でこれまであまり考慮されてこなかった樹幹流や林内雨に含まれる溶存態有機炭素(DOC)が、冷温帯落葉広葉樹林の土壌圏炭素動態や微生物群集に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。 本年度は岐阜県高山市の60年生落葉広葉樹林において、各種観測・サンプル採取装置を作成・設置することで、樹幹流や林内雨、リター溶出液の観測と試料採取を行った。この野外観測で得られた流量と、約1ヶ月に一回回収した採取サンプルを用いたDOC濃度測定結果により、林外雨、樹幹流、林内雨、リター溶出液によるDOCフラックスを計算した。 樹幹流とリター溶出液中のDOC濃度は明確な季節変化を示し、林冠木および林床ササ群落のフェノロジー(展葉や落葉)の影響を受けることが示唆された。また樹幹流については樹種による違いも見られた。 研究対象サイトの面積当たりに換算した年間(無雪期間)DOCフラックスは、林外雨が約50 kg ha-1 yr-1であったのに対して、林内雨が90-100 kg ha-1 yr-1であり、林外雨に含まれる量と同等のDOCが樹冠から林床へと供給されていた。一方、樹幹流のDOCフラックスは10 kg ha-1 yr-1未満であり、フラックスの大きさとしては重要でないと考えられた。林床に到達した水は、リター層を透過して鉱質土層へと浸透するが、そのリター溶出液によるDOCフラックスはおよそ350 kg ha-1 yr-1と非常に大きな値であり、鉱質土層へ大量の炭素を輸送する経路となっていることが示された。しかし、深さ約20cmから採取した土壌水中のDOC濃度はリター溶出液のDOC濃度の2割以下であったことから、鉱質土層に入ったDOCが土壌粒子などに効率的に吸着されている、あるいは土壌微生物によって急速に利用されている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の開始以前にある程度準備を行っていたため、また、これまでの経験を生かした各種試料採取装置の作成や設置が可能であったため、本年度当初からスムーズに野外観測を行うことができた。さらに予定の優占樹種3種に加えて、調査プロット内での個体数は少ないが生育様式が大きく異なる針葉樹も対象とし、データを得ることができた。また、当初懸念していたような、気象条件や野外生物等によって観測機器が大きく破損することも発生しなかったため、本年度は無雪期間を通じて観測を実施できた。また、当初予定していなかった積雪期間におけるデータ(降雪のDOC濃度およびフラックス)の取得も行うことができ、現在はすでに積雪期間も含めた年間フラックスデータを取りまとめている段階であり、野外観測関係については当初の計画以上に進展した。 さらに、本来は次年度以降に行う予定であった室内実験での土壌微生物群集解析について、一部その実施のための予備実験・予備分析に着手しており、今後の室内培養実験に向けて十分な検討を行うことができる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も継続して、前年度と同様の経時的な試料の採取と分析を実施する。本年度に行った冬季の試験的な観測では、融雪時期に多量の雪解け水が供給され、その結果相当な量のDOCがリター溶出液によって鉱質土層へ浸透したり、あるいは土壌表層流として系外へ移動したりする可能性が考えられたため、今後は冬季(特に融雪期)における観測も強化する。また、DOCフラックスのみならず、試料の全窒素や無機態窒素濃度を測定することで、溶存窒素(DN)フラックスについても結果を取りまとめる。これらのフラックスの実測値を、気象条件や季節変動、当該サイトの森林構造、植物フェノロジーなどと組み合わせて解析することによってモデル化を検討し、当該サイトにおけるDOCやDNフラックスの算出を試みる。 野外観測と並行して、DOCフラックスが土壌圏炭素動態や土壌微生物群集に及ぼす影響を評価するための室内実験を実施する。実際に野外で採取した樹幹流や林内雨、リター溶出液試料を採取土壌に添加し、土壌中の有機物の量や質、微生物群集の量や質がどのように変化するのかを経時的に調べる。 野外観測と室内実験の結果を組み合わせ、森林生態系におけるDOC、DNフラックスが土壌圏の炭素動態および微生物群集にどのような影響を及ぼしているのかについてまとめ、さらなる発展課題の立案を行う。
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Research Products
(15 results)